偽装結婚の相手は疑い深い脳外科医でした
「これが初めてじゃない? だったら前にも彼女の口座からお金を引き出したことがあるってことだな?」

「それは、まあ、そうですけど」

二、三回程度だが、事務所の用事で銀行に行く時に彩子個人の口座の現金の入出金を頼まれたことがある。
けれど今の彼の言い方では、まるで自分が何度も彩子からお金を巻き上げている常習犯のように聞こえる。

「そこまで信頼されるって、どんな手を使ったのか、気になるな。教えてよ」

遥人は表情を消し、じりじりと距離を詰める。

「どんな手も使ってません。信頼されているならうれしいけど、彩子さんは誰とでもすぐに仲よくなるし。私が特別ってわけじゃないから」

これ以上誤解するのは勘弁してほしい。
忙しい彩子に頼まれると断れず、引き受けているだけなのだ。

「確かに。彩子さん、こっちがヒヤヒヤするくらい誰でもウェルカムだからな」

「そうです。あまりにも人がよすぎて心配になることもあるし」

つい声をあげた咲良を、男性がチラリと見やる。

「そこにつけ込む人間を、俺は見てきたんだ」

「そんな人と私を一緒にしないで」

「で、君は彩子さんとどういう知り合いなんだ?」

男性は咲良の言葉をあっさり聞き流す。

「知り合いというか、上司? 大家? ……というより、あなたはいったい誰なんですか?」

ふとこの状況を振り返り、咲良は慌てて問い返した。

「えーっ。なんで遥人が来てるの?」

その時、リビングにのんびりとした声が響いた。
振り返ると、リビングの入口に彩子が立っている。

「彩子さんっ! 遥人って……この人知り合いなんですかっ?」

「そうそう。というか、私の甥っ子」

「甥っ子?」

思いがけない答えに、咲良はぽかんとする。

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