偽装結婚の相手は疑い深い脳外科医でした
「前に言ったような気がするけど、覚えてない? 甥が『駒(こま)田(だ)総合病院』の脳外科で働いてるって。でも、ちゃんと紹介してなかったもんね。ごめんね」

「いえ、それは全然。でも……ああ、そういえば」

彩子が入院していた時、世間話ついでに年が近い甥が病院で働いていると聞いたような気がする。
『見た目抜群な上に、外科医として腕もいいらしいのよね』とかなんとか、言っていたことも思い出した。
男性の顔をよくよく見ると、目元や薄い唇の形が彩子とそっくりで顔が小さいところや頭の形もよく似ている。
さっきソファの背から飛び出していた男性の後頭部を彩子と見間違えたのも納得だ。
彩子も目鼻立ちが整った美人だが、この男性も十人いれば十人が振り返りそうなほど端整な顔立ちをしている。

――ただ、性格は疑い深くてやっかいそうだけれど。

「じゃあ、改めて紹介しようかな。こちら、私の甥で入江遥人。年は私の九個下だから……三十三だよね。さっきも言ったけど、駒田総合病院の脳外科医よ」

彩子はそう言って、男性の傍らに立った。

「……入江です」

男性は硬い表情を崩さず咲良を見据えた。

「脳外科医……」

ステータスだけでなくスラリとした長身と整った顔立ち。女性患者や同僚の女性たちから人気がありそうだ。

――でも、無愛想。

「そして、こちらはうちで働いてもらっている芝田咲良さん。お願いしてこの家に住んでもらってるの」

「芝田です」

敵意を隠そうとしない男性に内心苛立ちながらも、彩子の手前、笑顔で挨拶をした。

「玄関から声をかけても返事がないし、なにかあったのかって慌てたけど、仲よく話してたみたいでよかった」

「仲よくなんてしてません!」

「ないだろ、それは」

とっさに声をあげた咲良に続き、遥人も面倒くさそうに口を開いた。
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