偽装結婚の相手は疑い深い脳外科医でした
彩子にスーツケースを手渡していた遥人が、怪訝そうに振り返った。

「だから、お昼です。甥っ子さんの分も用意もした方がいいですか?」

一応尋ねたものの、咲良のことが気に入らずご機嫌斜めな彼が、同じテーブルに着くとは思えない。

「俺なら結構。今日はひとまず帰る――」

「咲良ちゃんがよければ遥人の分もお願いできない? 遥人、子どもの頃からハンバーグが大好きなの」

彩子の期待に満ちた声に、遥人が目を丸くする。

「……私は大丈夫ですけど」

「ありがとうっ。遥人、ラッキーね。咲良ちゃんのハンバーグ、最高なの。今日も目が覚めた瞬間から楽しみで楽しみで」

「言いすぎです」

悪い気はしないが、褒め上手な彩子に思わず苦笑する。

「言いすぎじゃないわよ。お店を開けばいいのにっていつも思うし。遥人もごちそうになった方がいいよ。このまま帰ったら人生損するから」

「大袈裟だな。それに、勝手に決めるなよ。俺にだって都合が……いや」

彩子の押しの強さにあきれ顔で答えた遥人は、不意に黙り込んだかと思うと。

「そうだな、俺にもハンバーグ、もらえる?」

気が変わったのか、咲良に向かってなぜかそう言った。







「ねえ、うちのクローゼットの電気が切れてるから後で替えてくれない?」

ハンバーグをまたたく間に食べ終えた彩子が、遥人に声をかけた。


持参した缶ビールを次々と飲み干した彼女の顔は赤い。

「それくらい、私にもできますよ。明日仕事の合間にやっておきます」

彩子の自宅である三階建ての一軒家の一階が職場なのだ、昼休憩の時にでもやっておけばいい。

「いいのいいの。いつも遥人にお願いしてるし。美味しいハンバーグをごちそうになったんだから、お礼にそれくらいいいわよね」

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