偽装結婚の相手は疑い深い脳外科医でした
「ごちそうって、彩子さんが作ったわけじゃないだろ。まあ、いいよ。他にもなにかあったらついでに済ませるから言って」

遥人は当然とばかりに答えた。
決して優しい声ではないが、彩子を気遣っているのがわかる。

「ふたり、仲がいいんだな」

咲良が淹れたコーヒーを口に運びながら、遥人は探るような声で彩子に問いかける。

「そうなの。頼りにしてるのよ」

「で、どこで知り合ったんだ?」

遥人は咲良と彩子を順に見やる。
鋭い視線。まるで尋問だ。

「どこでって、遥人の病院。駒田総合病院よ」

「うち?」

彩子は頷いた。

「前に足を骨折して入院したことがあったでしょう? その時に談話室で知り合ったの。というよりナンパかな? 自販機があったから、お茶でもどう? 奢るわよって私が声をかけたの」

「なにやってるんだよ」

「だって、かわいい子がいるなーと思って、声をかけたくなっちゃったんだもん。体は元気なのにまともに歩けなくてストレスだらけだったし」

ふふっと笑い、彩子は肩を竦めてみせる。

「君もケガかなにかで入院してたのか?」

「まあ、そんな感じです」

咲良は長くなる話をここでする必要はないだろうと考えて、曖昧に答えた。

「あの時、咲良ちゃんと知り合って励ましてくれたから憂鬱なリハビリをさぼらず頑張れたのよ。そのお礼じゃないけど、この家も空き家にしておくのは物騒だし。かといって妙な人に貸したくないから。なんなら咲良ちゃんに譲ってもいいって考えてるの。司法書士だから、そのあたりのことはささっと済ませるから任せて!」

「またそんな冗談。お昼から飲みすぎです」

今まで何度も同じことを言われているが、それはお酒に酔った彩子のリップサービスのようなもの。本気だとしても、もちろんそのつもりはない。

「遥人? なにおかしな顔をしてるのよ」

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