偽装結婚の相手は疑い深い脳外科医でした
善人の顔で彩子に近づき彼女を傷つけてきた悪人を、何人も見てきたからだ。
害のない顔をしているが、彩子の資産を狙う相当なやり手だとしてもおかしくない。

「遥人? なにおかしな顔をしてるのよ」

今も遥人の心配などよそに、咲良が用意した料理に舌鼓を打ち、ビールを飲み干す彩子の能天気な言葉には、ため息しか出ない。
四十歳を過ぎ、おまけに何度も痛い目にあっているのだ、いい加減大人になってほしい。

「そんな小難しい顔をしてたら患者さんの病気だって治らないわよ」
 
咲良を疑う気持ちが顔に出ているだけでなく、睨みを利かせて牽制していたようだ。
すると彩子の言葉に同意してか、咲良が小さく頷いている。
そのわざとらしい仕草に思わず顔をしかめ、彩子に説教を続けてみるも暖簾に腕押し。
酔っ払いにはなんの効果もない。
おまけに咲良は彩子を心配する言葉を挟んできた。

「だまされる? 彩子さん、なにかあったんですか?」

善人か、悪人か。
下心などないとでもいうような無邪気な顔からは、咲良がそのどちらなのか判断できない。
だからといって、なにも手を打たないまま咲良の好きにさせておくわけにもいかず。
だったら彼女を監視すると決め、思いついたのが偽装結婚。
この家で彼女と暮らし行動を見張っていれば、彼女の本当の顔が見えるはずだ。
一番効率的で、手っ取り早い。

「俺と結婚しないか?」

早々に咲良に結婚……実は偽装結婚を切り出したことに、後悔はない。
そして、彼女の返事は――。


< 2 / 26 >

この作品をシェア

pagetop