偽装結婚の相手は疑い深い脳外科医でした
第一章 不機嫌な来客
第一章 不機嫌な来客
暦が進んだとはいえ肌寒さが続く三月半ば。
買い物を済ませた芝田咲良は商店街を抜け、くせのない艶やかな黒髪を肩の上で揺らしながら自宅へと急いでいた。
身長百六十センチの華奢な体には適度に筋肉がついていて、足取りは力強い。今年二十六歳を迎えるが、年齢よりも若く見える顔は生き生きとしていて楽しそうだ。
黒目がちの大きな目も、温かな日の光を浴びて輝いている。
「いい気分っ」
気が急いているとはいえ体を動かすのは気持ちがいい。
このところ仕事が忙しくて、趣味のランニングに出かける時間を確保できなかったとなればなおさらだ。
白く透き通った肌を軽く火照らせながら、駆け足に近い歩みをさらに速めた。
昔ながらの民家が軒を連ね、ゆったりとした空気が流れるこの街に越してきてから三カ月が過ぎ、特有のざわめきや親密な空気感にもようやく慣れてきた。
今も商店街を十分ほど歩いただけで何軒かの店から声をかけられ、そのたびに立ち止まり、ちょっとした世間話で盛り上がった。
人見知りせず人の輪に躊躇なく入れる性格が幸いしてか、長くここで暮らしているような気がするほどだ。
以前暮らしていた高級住宅地として知られている街との違いに戸惑うことも減り、あちこちからの声がけに笑顔を返すだけでなく自分から声をかけることも増えてきた。
「コロッケ、揚げたてだからどうだい」
「鰹がお薦めだよー」
今も威勢のいい声に思わず立ち止まりそうになるものの、そろそろお腹を空かせた彩子が来る頃だ。
「今度ゆっくり寄らせてー」
手を振り答えながら、さらにスピードを上げて自宅に向かう。
自宅といっても勤務先である『真鍋司法書士事務所』の代表・真鍋彩子の厚意で住まわせてもらっている平屋の一軒家。
ここから歩いて十分ほどの場所にある。
彩子は咲良の祖父が入院していた病院で知り合った四十二歳の女性で、当時彼女は脚を骨折して入院していた。
祖父が亡くなり、彩子も無事に退院してから連絡を取り合うことは滅多になかったが、三カ月ほど前に書店でばったり顔を合わせたことがきっかけで関係が再開した。
暦が進んだとはいえ肌寒さが続く三月半ば。
買い物を済ませた芝田咲良は商店街を抜け、くせのない艶やかな黒髪を肩の上で揺らしながら自宅へと急いでいた。
身長百六十センチの華奢な体には適度に筋肉がついていて、足取りは力強い。今年二十六歳を迎えるが、年齢よりも若く見える顔は生き生きとしていて楽しそうだ。
黒目がちの大きな目も、温かな日の光を浴びて輝いている。
「いい気分っ」
気が急いているとはいえ体を動かすのは気持ちがいい。
このところ仕事が忙しくて、趣味のランニングに出かける時間を確保できなかったとなればなおさらだ。
白く透き通った肌を軽く火照らせながら、駆け足に近い歩みをさらに速めた。
昔ながらの民家が軒を連ね、ゆったりとした空気が流れるこの街に越してきてから三カ月が過ぎ、特有のざわめきや親密な空気感にもようやく慣れてきた。
今も商店街を十分ほど歩いただけで何軒かの店から声をかけられ、そのたびに立ち止まり、ちょっとした世間話で盛り上がった。
人見知りせず人の輪に躊躇なく入れる性格が幸いしてか、長くここで暮らしているような気がするほどだ。
以前暮らしていた高級住宅地として知られている街との違いに戸惑うことも減り、あちこちからの声がけに笑顔を返すだけでなく自分から声をかけることも増えてきた。
「コロッケ、揚げたてだからどうだい」
「鰹がお薦めだよー」
今も威勢のいい声に思わず立ち止まりそうになるものの、そろそろお腹を空かせた彩子が来る頃だ。
「今度ゆっくり寄らせてー」
手を振り答えながら、さらにスピードを上げて自宅に向かう。
自宅といっても勤務先である『真鍋司法書士事務所』の代表・真鍋彩子の厚意で住まわせてもらっている平屋の一軒家。
ここから歩いて十分ほどの場所にある。
彩子は咲良の祖父が入院していた病院で知り合った四十二歳の女性で、当時彼女は脚を骨折して入院していた。
祖父が亡くなり、彩子も無事に退院してから連絡を取り合うことは滅多になかったが、三カ月ほど前に書店でばったり顔を合わせたことがきっかけで関係が再開した。