魔女の受難と天使の試練・監視という奇妙な同居生活からはじまる愛
<魔女の異端審問>

夕方、教会と隣接するマンション前で大学教授、漆原は車から降りた。

まだ緑が豊かで里山も残る、大学キャンパスがいくつかある文教都市。

漆原は黒縁眼鏡を持ち上げるように、触れてから周囲を見回した。

指定されたマンションの周囲には、天使結界が張り巡らされている。

魔女たちの奪還、襲撃もありうるからと、サリエルが何重にも結界を張ったのだ。

4階の402号室、そこにアレクサンドラが来ているはずだ。

グルシアは鍵を開け、玄関口で立ち止まった。

邪悪な臭いがしない。

魔女は特有の臭いを持つ者が多いのだが、それとも高位の魔女は、臭いまでもコントロールするのか?


廊下の突き当りは南向きのバルコニーのあるリビング、東南角部屋がベッドルーム。

北側にもう一部屋ある、2LDKの間取り。

「グルシア様、お待ち申しておりました」

部下の天使が、リビングの戸を開けて出迎えた。

「アレクサンドラは?」

「寝室に」

「そうか。では、すぐに挨拶をせねばならんな」

グルシアは、アタッシュケースを配下の天使に手渡して言った。

「うううう・・」

ベッドに寝ている、いや転がされているのは、あの荒木沙羅だった。

焦げ臭い汚れた紫のローブでぐるぐる巻きにされ、口にテープが貼られている。

乱れた漆黒の髪は、からすの濡れ羽色で艶やかだ。

上目遣いで、グルシアをにらんだその瞳は冷たい輝き、鉱物質の深いエメラルド。

時折、油膜のように蛍光色が浮かんでは消える。

「アレクサンドラ・・荒木沙羅だな」

グルシアは、幼く見える少女の姿に、戸惑いを感じながら尋問を始めた。

アレクサンドラは、自分の姿を自由に変えられるはずだ。

「本当の姿は、この姿なのか?」

「うううう・・」

アレクサンドラは、首を曖昧に振った。

「口のテープを外してやれ。話ができない」

グルシアは、側にいた下級天使に命令をしたが、天使は身を引いて、おびえたように

「私たちが触れると、炎がでてしまうので、うかつに触れることができないのです」

別の天使が続けた。
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