素のまま恋

「え?私はフルタイム。旅館の娘ってことで慣れてることもあるだろうからって。そのかわり、片付け免除って感じ」

「なるほどな。ならいつ来てもいいわけだ。んじゃありがたく使うわ。また後で」

「お、おう。こちらこそ。……また」


ひらひらと手を振って戻っていく背中。
もらった櫛に優しく触れれば、



ドキッ──と胸が高鳴り、


自分の鼓動に驚いて瞬時に胸をおさえてしまった。
今から浴衣に着替えないといけないのに……暑いし、息苦しい……。



「ほほう?」

「うわっ……なによ急に」


落ち着こうとしていれば、また背後から杏奈登場。
杏奈はすでに浴衣へと着替えていた。


「華道界の貴公子殿に一枚しかない半額券を渡すとは……すみにおけない次期女将」

「あ、あれはあくまでお礼ですお礼。別の学年の手伝いなんかさせたんだから……お、れ、い!」

「ふむふむ。そういうことにさせておこうではないか。髪飾りをもらったのはなぜでしょな」

「余ったから……って、杏奈?ずっと見てたの?」


口ぶりからしてそうじゃないか、と今更気付いた。
ほら、杏奈ってばにこにこしてる。


「浴衣に着替えながら見てました。うふっやっぱり貴公子といい仲なんじゃーん。詩姫ってば羨ましい」

「違いますー。私も着替えなきゃだから、この茎の部分お願いね!」


茎を杏奈に押し付けるようにして、私は教室までのちょっと距離を走った。
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