片想いが終わる頃、恋が始まる。
──そして、俺と翡翠が高校一年生になった、あの夏。
翡翠は、突然、俺たちの前から姿を消した。
組長は、「最近あいつの様子がどこかおかしかった。姿を消したのはそのせいかもしれない」と、苦渋に満ちた声で言った。
誰よりも近くで。
誰よりも、彼女のことだけを一途に見ていたはずなのに。
────俺は、何も、気づけなかった。
────それと同時に。
彼女に、何ひとつ相談すらしてもらえなかった自分の存在が、酷く惨めで嫌になった。
俺たちの前から姿を消さなきゃいけないくらい、何か、途方もないものを抱え込んで、ひとりで苦しんでいたはずなのに。
そんな素振りなんて微塵も見せずに、いつも通り無邪気に笑っていた翡翠。
───俺は彼女にとって、そんなに頼りない男だったのか。
押し寄せる絶望と情けなさに、俺は、自分を見失いそうになっていた。
唯一の救いは、あの葵が今までにないくらい取り乱して、必死に翡翠を探していたこと。
側近の俺がひとりで動くより、"若頭"である葵が動いた方が、格段に翡翠が見つかる可能性は高くなる。
……でも。
もしかしたら、葵も────なんて。
今まで見せたこともないくらい焦り狂っている葵を見て、醜く複雑な感情を抱いてしまったのも、紛れもない事実だった。