恋も料理もじっくり弱火で
 学校を出て十分ほど歩くと、二人は地域密着型の大きめのスーパーへとやって来た。
 自動ドアが左右に開いた瞬間、冷房のひんやりとした空気が二人の頬を撫でる。

「わぁ……!」

 柚葉は入店した瞬間から、パッと両目をきらきらと輝かせた。

「やっぱりスーパーって楽しいですね!  この空気だけでテンション上がります!」

 入り口付近に広がる色取り取りの新鮮な野菜に、奥から漂ってくるお惣菜の香ばしい匂い。さらにベーカリーコーナーから流れてくる焼きたてパンの甘い香りが鼻腔を擽り、柚葉の足取りは自然とスキップしそうなほど軽くなる。
 そんな分かりやすすぎる反応を示す柚葉を見つめながら、秋月はくすりと声を漏らした。

「本当に、こういう場所が好きなんだね」
「はいっ!」

 一瞬の迷いもない即答だった。

「並んでる食材を見てるだけで、次から次へと食べたいものが浮かんできてお腹が空いちゃいます!」
「あはは、まだ部活の途中だからね?  ちゃんと理性を保ってよ」
「分かってますってば!」

 返事だけは威勢がいい。けれどその視線は、ちゃっかりと香ばしい匂いの発生源であるパンコーナーへと吸い寄せられている。

「……そんなに見たい?  後でちょっとだけなら寄ろっか」
「えっ!」

 柚葉は弾かれたように秋月を見上げた。

「いいんですか!?」
「買い出しが全部終わって、時間に余裕があればね」
「やったぁ!」

 小さく胸の前でガッツポーズをする柚葉に、秋月はもはや苦笑するしかなかった。

「じゃあ、約束通り先に必要なものを探そうか。はい、カゴ持って」
「はい!」

 在庫表のメモを取り出し、二人はさっそく広い売り場を回り始める。

「まずはレタス、レタス……あ、ありました!」

 青果コーナーの棚の前で、柚葉が嬉しそうな声を上げる。
 山積みにされたレタスへ一番上にあったものを目掛けて手を伸ばしかけた、その時だった。

「あ、ちょっと待って」

 秋月がすっと隣へ並び、柚葉の手を優しく制して、並んでいるレタスを一つひとつ丁寧に手に取っていった。

「……?  先輩、どうかしたんですか?」
「柚葉ちゃん、レタスを選ぶときはね」

 先輩は外側の葉を傷つけないように軽く捲りながら、まるでお手本を見せるように話し始める。

「葉先までみずみずしくて、この底の芯の切り口が白くて十円玉くらいの大きさのものが新鮮なんだ。赤っぽく変色してるのは時間が経ってる証拠」
「えっ、そうなんですか!?  ただの丸い葉っぱだと思ってました……」
「うん。それに、持ったときの重さも意外と大事なんだよ」
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