恋も料理もじっくり弱火で
 そう言って、先輩は左右の手で二つのレタスを持ち比べる。

「キャベツは重い方がいいんだけど、レタスは重すぎると葉が硬くなってる証拠だから、持ったときにふんわりと軽いものを選ぶのがコツなんだ。ほら、こっちの方が適度に葉が詰まってて良さそうでしょ?」
「すごい……」

 柚葉は感心したように、レタスと秋月の横顔を交互に見つめた。

「私、なんとなく一番大きくて安い方を選べばいいのかと思ってました」
「それも主婦感覚としては大正解だよ」

 秋月はふっと目元を和らげて笑う。

「でも、料理がおいしく仕上がるかどうかは、こういうちょっとした食材の選び方で結構変わってくるからね」
「なるほど……お料理って、買う段階からもう始まってるんですね……!」

 柚葉は深く感銘を受けたような真剣な顔で頷きながら、先輩が選んでくれた極上のレタスをそっとカゴへと納めた。

「よし、じゃあ次はマヨネーズです!」
「調味料売り場はあっちの列だね」

 二人は再び並んで歩き出す。
 しかしその途中、綺麗にパック詰めされたお肉がずらりと並ぶ精肉売り場の前を通った時、柚葉の足がピタリと止まった。

「……」
「柚葉ちゃん?」

 無言でパックを見つめる柚葉に気づき、秋月が不思議そうに覗き込む。柚葉はゴクリと唾を飲み込み、大真面目な顔で先輩を見上げた。

「秋月先輩」
「うん?」
「今日の我が家の晩ご飯、ハンバーグだったらいいなぁって……今、心から思いました」

 ひたすらに自分の食欲と向き合っただけの告白に、秋月は一瞬呆気に取られた後、耐えかねたように吹き出した。

「ふっ……くくっ」
「あ、笑いましたね!?」
「だって……ははっ、本当に期待を裏切らないなと思って。また自分の食べたいもののこと考えてたの?」
「だって、この挽き肉、すごくジューシーで美味しそうなんだもん……」
「はははっ!」

 あまりにブレない柚葉の食いしん坊ぶりに、先輩は肩を震わせながら声を立てて笑う。つられて柚葉も恥ずかしそうにえへへと笑った。
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