恋も料理もじっくり弱火で
 ショッピングモールを後にする頃には、空はすっかり綺麗な茜色に染まっていた。
 二人は涼しい夕風に吹かれながら、住宅街の片隅にある静かな公園へと足を運ぶ。昼間の賑やかさとは打って変わって、風に揺れる木々の音だけが心地よく響く空間だった。
 並んでブランコに腰掛け、靴の先で地面を軽く小突く。

「今日は本当にありがとうございました。すっごく楽しかったです、先輩」

 柚葉が心からの感謝を伝えると、秋月はブランコの鎖を握ったまま、静かにこちらを見つめた。

「俺の方こそ、付き合ってくれてありがとう。……学校の奴らには、今日の店のこと、秘密ね」
「え?  どうしてですか?  あんなに美味しいお店なのに」

 きょとんとする柚葉に、秋月は少しだけブランコを揺らし、距離を縮めるようにして顔を近づけた。
 夕暮れの光に照らされたその表情は、ずるいくらいに優しくて、少しだけ独占欲が滲んでいる。

「だって、教えたら他の奴らが柚葉ちゃんを誘うかもしれんやろ?  ……あのお店も、さっきのクレープも、俺と君だけの思い出にしといて」
「――っ」

 その、心臓に悪いほど真っ直ぐな博多弁の『秘密の共有』。
 結菜達に「先輩の博多弁を秘密にしたい」と思ったあの日の独占欲が、今、先輩の側からも同じように自分に向けられているのだと知って、柚葉の胸はちぎれそうなくらいに高鳴った。

「……先輩、そういうの、やっぱりずるいです」
「ずるくないくさ。俺の『特別』は、もう勘違いじゃないってことでいいって、あの日約束したろうもん?」

 秋月はブランコからすっと立ち上がると、柚葉の目の前に立ち、その小さな両手を優しく包み込むように握り締めた。

「だから、これは二人の秘密。……また次のオフの日も、二人で美味しいもの、食べに行こうね」
「……はい!」

 また『次』がある。
 たったそれだけのことが、柚葉にとっても、秋月にとっても何にも代えがたい幸せだった。

 それから、何をするでもなく茜色から青く滲んでいく空を眺める時間が進む。
 ブランコを揺らす柚葉。
 ブランコを囲う柵に腰掛ける秋月。
 二人の視線は夕焼け空へと釘付けになっていて、互いがどのような表情をしているのかなど知りもしない。
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