自称『おっさん』なイケおじ上司はパソコンよりもハンドルが似合う
 車内には上品なアロマの香りが漂っている。
 藤原さんは慣れた手つきでハンドルを握り、滑らかに車を走らせていく。夜の街灯がフロントガラスを通り過ぎ、彼の端正な横顔を交互に照らし出していた。

 その横顔があまりにも絵になりすぎていて、私は緊張も忘れて思わずじっと見惚れてしまっていた。
 長い睫毛、通った鼻筋、ハンドルを回す大きな手。本当に、どこの貴族だろう。どうしてモデルにならなかったのか不思議なぐらいだ。

「ふふっ、そんなに見られたら照れるなぁ」

 前を見つめたまま、藤原さんがイタズラっぽく口元を緩めた。運転している藤原さんに気づかれるぐらい見つめていたなんて。それどころか、言われるまで無自覚だったことが余計に私を焦らせた。

「あっ! す、すみません! あまりにも運転がスマートで、…あの、つい……」
「光栄だよ。普段もそれぐらい素直に話してくれていいんだよ。根室さんは気を遣いすぎる傾向にあるとは思ってたんだ」

 「前からね」と付け加えられる優しい声に胸の奥がチクリと痛む。
 仕事がうまくいかなくて、いつも波風立てないように愛想笑いをしていた自分を見透かされていた。

「……すみません。私、いつも要領が悪くて。今日もあんなに仕事残しちゃって……。本当はもっと、藤原さんみたいに完璧に仕事をこなしたいのに、全然追いつけなくて……」

 静かな車内だからだろうか。いつもなら胸に仕舞い込むはずの弱音が、ポツポツと溢れ出てしまう。

 藤原さんはしばらく何も言わず、ただ静かにウィンカーを出して、信号待ちのために車を滑らかに停止させた。

(上司に何言ってるんだろう。こんなの困らせるだけなのに)

 やってしまった、と私が俯きかけたその時。

「完璧な人間なんて、そうそういないよ」

 藤原さんは前を向いたまま、ぽつりと言った。

「僕だって、昔はたくさん失敗したし、今でも行き詰まることくらいある。根室さんは、誰よりも一生懸命で、1つ1つの仕事がすごく丁寧だと思うよ。それは要領が悪いんじゃなくて、誠実な証拠。僕は君が羨ましいけどね」

 彼はそっとこちらを向き、いつもの『完璧な上司』としてではなく、どこか人間らしい温かみに満ちた優しい目元で微笑んだ。

「だから、そんなに自分を責めないであげて」

 その言葉を聞いた瞬間、肩にのしかかっていた重荷が、すっと軽くなるのを感じた。

「……ありがとうございます、藤原さん」

 心からの言葉が、自然と口から溢れていた。
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