ライバル同期の緒方は魅力的な手をもっている
 今回広告案を提案するのは、老舗化粧品会社の新商品のハンドクリームだ。説明によるとこの商品は、社長の肝いりで開発されたものらしく、赤ちゃんからお年寄りまで使える世代を選ばないハンドクリームなのだそうだ。

 緒方はハンドクリームの蓋を開けると、手の甲にチュッとクリームを押し出す。そのまま両手の甲を合わせると、くるくるとクリームを伸ばしだした。

(へぇ、緒方の手って綺麗な形してるな)

 麻由葉はぼんやりと、緒方がクリームを伸ばす動きを見つめる。緒方は両手の甲を合わせた後、手のひらをゆっくりとすり合わせ、クリームを指先一本一本に丁寧に伸ばしていく。少し日焼けした肌にクリームが薄く伸ばされ、艶のある膜が張られたように潤って見えた。
 よくよく観察すると緒方の指は細身でとても長い。でもしっかりとした節もあり、男性らしさも伴っているのがわかる。

(指先の感じとか、結構いいなぁ。触ったらしっとりしてるのかな?)

 どんな質感なのだろうと、ふとそんなことを考えて、慌てて首をふるふると振った。

(やだ、ついいつもの癖が出ちゃった)

 取り繕うように資料に目線を戻す。
 麻由葉は自分の手に酷くコンプレックスがある。そのせいか、昔からつい色んな人の手をじっと見てしまう癖があるのだ。そしてあの形は好きだとか、この質感はいいだとか心の中で勝手に評価してしまう。
 そしてある日気がついたのだ。顔が人それぞれ違うように、手も人それぞれ全く違うのだということに。それは形や色、大きさや肌質だけでなく、職業や生活環境でも変わるのだ。当たり前だがそれに気がついたときは感動した。そしてその手ひとつひとつには、その人の今までの人生の歴史が刻まれているような気がして、愛しさすら感じてしまうのだ。
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