ライバル同期の緒方は魅力的な手をもっている
 でも今まで緒方の手をじっと見る機会はなかった。〝極度にライバル視している緒方の手なんか見てやるものか〟と意地を張っていたのかも知れない。でもふいに目に飛び込んできた緒方の手は、なかなかに魅力的なものだとわかった。

(緒方って、案外繊細なのかも?)

 その手を見つめながら麻由葉がふと思ったとき「ちょっと休憩するか」と緒方が席を立つ。促されて、一緒にリフレッシュルームに向かった。

「諸星は砂糖とミルク入りがいいんだっけ?」

 自動販売機の前で緒方が顔を向け、不思議に思いながらも「うん、そう」と小さく返事をする。もう他の社員は退社しているのか、リフレッシュルームには誰もいなかった。
 椅子を引き、シーンとした室内の端にちょこんと腰かける。するとしばらくして緒方が缶コーヒーを持って現れた。

「今日は俺のおごり」

 緒方はそう言って麻由葉の前にコンと音を立てさせながらカフェオレの缶を置く。長い指先が見えて思わず目で追いそうになり、わざとらしく慌てて顔をそむけた。

「私が甘いコーヒー好きだって、よく知ってるね」

 取り繕うように声を出すと、緒方はやや目線を上に向けながら「まあね」と小さく声を出す。しばらくして「営業のたしなみってやつかな?」とふっと笑った。
 円形のカフェテーブルを挟んで緒方と向かい合わせに座る。

「ご馳走になります」

 麻由葉はぺこりと頭を下げ、カフェオレの蓋を押し開けた。そっと口元に運ぶとふわりとコーヒーの香りが鼻先をかすめる。その香りにほっとしながら、向かいでスマートにブラックコーヒーを飲む緒方の指を見つめた。

(あぁやっぱり、しっとりしたタイプの指先だ。結構好きなタイプかも……)

 麻由葉はそこまで考えて(いやいや、好きって何よ)と自分の心に突っ込みを入れる。

(いけない、いけない。仕事モードに戻らないと)

 麻由葉がそう自分に活を入れた時、急に目の前に緒方の顔が映りこむ。突然のことに麻由葉はビクッと肩を揺らした。
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