ライバル同期の緒方は魅力的な手をもっている
「諸星、さっきからずっと俺のコーヒー見てるけど、こっちの方が良かった?」

 緒方が自分のブラックコーヒーを差し出し、麻由葉は慌ててふるふると首を振った。せっかくご馳走してもらったのに、変に気を使わせてしまった。

「ごめん、違うの。なんていうか、その……緒方の手を見てたっていうか……」
「俺の手?」
「そう、その……緒方って指長いよね」

 自分は何を言っているのだろうと思いながらも、つい興味が勝り、不思議そうな顔をする緒方の手に目線を向ける。

「そうかな? 自分では気にしたことないけど」

 緒方はそう言いながらコーヒーの缶をテーブルに置くと、麻由葉の前で両手を広げて見せた。

(あぁやっぱり。素敵な手の持ち主だ)

 麻由葉は思わず顔を覗き込ませる。思った通り緒方の指はとても長い。ひとつひとつの節は存在感があるのに、迷いなく真っすぐに伸びている。手のひらは男性らしく厚く大きめで、手の甲に浮き出る青白い血管は、日焼けした肌に相まって色っぽさを感じさせた。

「諸星って手フェチなの?」

 すると突然、覗き込む頭上から緒方の低い声が聞こえ、麻由葉はバッと頬を染めながら顔を上げた。

「フェ、フェチ⁉」
「いや、こんなに手をじっくりと見られた経験がないから、つい」

 見ると緒方の頬もやや照れたように赤くなっている。麻由葉は慌てて身体を起こすと「えっと……」と口ごもる。

「フェチって言われればそうなのかも。私ね、つい人の手を見ちゃう癖があるんだよね」

 緒方は真っすぐに顔を上げて麻由葉の話に耳を傾ける。

「それでね、あの手はいい、この手は好きだなって心で思うの。手ってその人の歴史が刻まれてる気がして、愛しいんだよね。って、ごめん、気持ち悪いよね。緒方のこと、決して変な目線では見てないから安心して!」

 麻由葉そこまで言うと、慌てて両手を大きくぶんぶんと横に振る。
 緒方はしばらく考え事をするかのように口を閉ざしていたが、急にくすりと肩を揺らすとふっと笑い出した。
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