ライバル同期の緒方は魅力的な手をもっている
「諸星のおばあさんは、手だけを見て自分の人生を決めたってことでしょ?」
「うん……」
「今の世の中ってさ、情報が多すぎるんだよね。だから惑わされて本当に大切なものが見えない。俺は逆に羨ましいけどな。手だけで自分を選んでくれる相手に出会えたことが……」

 緒方の言葉に麻由葉ははっと目を開く。そんなこと、一度も考えたことがなかった。
 麻由葉の瞼に祖母のいつも笑っていた顔が浮かび、ふと胸の内が熱くなるのを感じる。

「緒方って、すごいね」

 感動したような顔を向けると、緒方はやや照れたようにはにかんだ。でもすぐに悪戯っぽい顔をこちらへ向ける。

「まぁでも諸星は、単なる手フェチかも知れないけどな」

 緒方はわざとらしく麻由葉の前でひらひらと手を振っている。普段はクールな緒方のこんな姿は見たことがない。
 麻由葉は一瞬あっけにとられつつも思わずぷっと噴き出してしまった。

 ふたりの楽しそうな笑い声がリフレッシュルームに響き渡る。
 その時、麻由葉の脳裏にあのハンドクリームが浮かぶ。

「ねぇ! それって企画に生かせないかな?」
「どういうこと?」
「余計な情報はすべてカットして、ハンドクリームと手だけをピックアップするの」
「手だけを……?」

 緒方はしばらく口を閉ざすと、考えるように顎先に長い指をあてる。
 麻由葉はわずかに動くその指先をじっと見つめていたが、急にその指先が目の前にピント差し出された。

「それ、面白いかも知れない。すぐに戻って案にしてみよう」

 緒方の声に大きくうなずいた麻由葉は、カフェオレをごくりと喉に流し込んでリフレッシュルームを飛び出した。
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