見合い相手の秘書様がどストライクだった件
 湊介が乗ってきた社用車には直樹が乗って帰ったため、二人は歩いて駅まで向かうことになった。
 予想もしていなかった展開に動揺しつつ、桃花は相手に気取られないよう慎重に、しかし全神経を集中させて、染羽湊介という青年を観察した。
(ソメハさん……。東住さんの個人秘書って聞いたけど、年はいくつなんだろう。すごく落ち着いて見えるけど、意外と若いんじゃないかな。っていうか、スーツとメガネのコンボやばい……)
(ソメハ、ソウスケさん……。字はどう書くのかな。あ、頼んだら名刺をもらえるかな。ところで次の予定って、私と秘書のソメハさんで決めていいのかな……。っていうか、自然に車道側を歩いて、私の遅い足に合わせて歩いてくれて……、めっちゃ気遣いのできる人だな……)
(ソメハさん。左手薬指に指輪はしてないけど、独身かな、既婚者かな。こんなに素敵なんだもん、絶対奥さんか彼女がいるよね……。あー、スーツが似合いすぎる……。カッコ良くてイケボでスマートで……。大学卒業するまでこっちにいたけど、私の身近にはこんな2.5次元な人、存在しなかったよ……。まさか秋田に引っ越してから会うなんて……。しかも、見合い相手の秘書だなんて……)
 一人沈思黙考していた桃花だが、ここで急に現実を思い出した。
(ああ~っ、そうだよぉ~。私の見合い相手は東住さんで、ソメハさんじゃないんだよぉ~っ! なんで、なんでソメハさんじゃないんだよぉ~~~っ!)
 たった数百メートルの距離を行くあいだに、喜怒哀楽ありとあらゆる感情を経験した桃花は、駅に到着するころには精神的疲労がピークに達していた。
「今日は……、お世話に、なりました……」
 目立つ駅舎前で足を止め、桃花は疲労困憊の表情で秘書に挨拶した。
 すると湊介は急にハッとして、「申し訳ありません。自分の名刺をお渡しすることを失念しておりました」と、あわてた表情でポケットから名刺入れを取り出した。
『東住食品株式会社 常務取締役 東住直樹 秘書 染羽湊介』
「わ……、ありがとうございます」
 彼の肩書きが記された名刺を受け取り、桃花は喜びに頬を紅潮させた。
 湊介と連絡先を交換し、桃花は名残惜しい気持ちで秋田に戻った。
 そしてその夜、「見合いどうだった?」という父の電話には、「え。普通に最悪」とだけ答えて通話を切った。
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