見合い相手の秘書様がどストライクだった件

「普通に最悪」だった桃花に対し、東住直樹のほうは彼女を気に入ったらしく、初顔合わせから三日後、すぐに次のデートの予定が入った。
 今度はホテルのカフェで待ち合わせたいとのことで、拒否権のない桃花は渋々了承した。
 毎週秋田から東京まで出向くのは面倒だし、またあの笑えない武勇伝を聞かされるのかと思うと気が重かったが、もしかすると染羽秘書に会えるかもしれない、という期待もあり。
 憂鬱と高揚という相反する心を抱えて、当日土曜、桃花は東京駅に到着した。
 今回は、染羽秘書が新幹線出口で桃花を待っていた。今日の彼はネイビーのスーツに水色のネクタイを合わせ、先週よりずっと若く見えた。今日は桃花もネイビーカラーのワンピースを選んだため、思いがけずペアルックのようになった。
 専属の運転手が操縦する黒塗りセダンの後部座席で、桃花は隣に座る湊介に「あのぉ」と話しかけた。
「失礼ですが、染羽さんの年齢をうかがってもいいですか?」
「え?」
 冷静な秘書はすこし驚いた顔をして、「今年の七月で二十七歳になりました」と素直に答えた。
「ということは、東住さんと同学年なんですね」
「はい」
「学校を出られてすぐ、今の会社に入られたんですか?」と桃花は質問を続けた。
「はい。大学卒業前から直樹さんの秘書をすることが決まっていました。母が、東住家と関わりがあるものですから……」
「そうなんですかぁ。秘書のお仕事って大変そうですね。お休みの日は何をされているんですか?」
「休日はジムに行ったあと、行きつけのカフェで読書をすることが多いですね。あとは家で映画やドラマを見たり……」
「カフェで読書! 素敵ですね。私も本が好きなんですよ。最近どんな本を読まれましたか?」
「そうですね……。先日は去年直木賞をとった……」
 矢継ぎ早な桃花の質問に一つ一つ丁寧に答えながら、ふいに湊介がフッと笑った。彼は驚く桃花の顔を見て、弧を描いた目で「すみません」と詫びた。
「なんだかこのやり取りが、見合いの席で交わされる会話みたいだと思ったら、急におかしくなって……」
「あっ、すみません、私ったら。不躾にあれこれ聞いちゃって……」
「かまいません。私で良ければ、なんでもお答えします」
 湊介はそこでいったん言葉を切り、「直樹さんとは……」と小さな声で言った。
「先日、こういう話はされましたか?」
「ええっと……、東住さんとは、あまり……」
「そうですか。彼は一見ちゃらんぽらんに見えますが、根は真面目で思いやりのある人間です。どうも香光様を前にすると、いい格好をしたい気持ちが見当外れな方向へ向かうようですが」
「あ……そうなんですね……」
 上司をフォローする湊介の言葉に、桃花はひそかに傷ついた。湊介の立場ならば当然のアシストだが、桃花からすれば、好きな人に別の男をお勧めされた気分だった。
(え……、なんで私、こんなにショック受けてるの。まさか、たった一度会っただけの人に、こ、恋とか、しちゃってるわけ……? うそでしょ……?)
 呆然とする桃花を乗せ、車は待ち合わせのホテルに着いた。創業百年を越える老舗の五つ星ホテルだ。
 湊介が直樹に到着の連絡を入れた。しかし通話を終えた彼は困惑顔で、「香光様、申し訳ございません」と桃花に詫びた。
「東住ですが、急きょ取引先から呼び出しがあったらしく、到着が一時間ほど遅れるそうです」
「あ、そうですか……」
「今日はこのホテルのアフタヌーンティーを楽しんだあと、地下のアーケードでショッピングする予定でした。席の予約時間がありますので、アフタヌーンティーは東住抜きで……」
「えっ! まさか私、一人でお茶しないといけないんですかっ!?」
 思わず桃花が叫ぶと、湊介はクスリと笑い、「いいえ」と言った。
「東住の代わりに、私がお供を務めさせていただきます。申し訳ございません」
「えっ、染羽さんがっ!?」
 とたんに彼女の心臓は、小さなステップを踏み始めた。
 飛び跳ねたい気持ちをこらえつつ、「でも、染羽さんもお忙しいんじゃ……、本当にいいんですか……?」と桃花は遠慮がちに聞いた。
 湊介は柔らかな笑みを浮かべ、「もちろんです。私でよろしければ、喜んでお付き合いいたします」と言った。
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