稲光家に溺愛される令嬢〜稲光らい様は彼女に夢中〜
「おはよう、ベンデッタ」

 ニーフェが、
 スクールバッグの中から声をかけてきた。

 その頃には、
 もう昼休みになっていた。

「……遅いよ」

 私の発した言葉は、これだった。

「せりおちゃん、どうしたの?」

 一緒にお弁当を食べるという、
 稲光らい様の従妹、
 稲光らい()に声をかけられた。
「何でもない」

  らい光と他愛ないやり取りをしながら、
 私はお弁当のふたを開けた。

 昼休みは、あっという間に過ぎていった。

 放課後になり、
 私は電車に乗って家の最寄り駅で降りる。

 私の家の近所には、
 稲光家の親族が集まって暮らしている。

 右隣には稲光らい様の家があり、
 左隣には稲光らい光ちゃんの家がある。

 気が向いた時には、
 お互いの家を行き来することも珍しくない。

 私の養父母は士業関係の仕事をしているため、
 日中は家を空けていることが多い。
 それでも、朝は時間を作って養母が朝食を作ってくれたり、
 お弁当を用意してくれることもあった。

 今日もいつものように家へ帰り、
 玄関へ向かう。

 しかし、
 その途中で私は足を止めた。

 家の前の道路に、
 同じ白薔薇学園の制服を着た女子生徒が倒れていた。

 制服は血で赤く染まり、
 ぴくりとも動かない。
「大丈夫ですか!」
 私は慌てて駆け寄り、声をかけた。
 返事はない。

 私はすぐに朝のニュースを思い出した。

 ――女子中学生グループによる連続通り魔事件。

 まさか、この辺りまで犯人が来ていたのだろうか。

 胸騒ぎを覚えながら、
 私はスマートフォンを取り出し、
 一一九番へ救急車を要請した。

 通報を終えた、その直後だった。

 ヒュッ、と風を切る音が耳元をかすめる。

 反射的に身体を横へ動かすと、
 一振りの包丁が勢いよく飛んできて、
 背後の塀に突き刺さった。

「……!」
 私は素早く振り返る。

 そこには、別の制服を着た女子生徒たちが数人立っていた。

 全員が不敵な笑みを浮かべていた。

 その手には血の付いた刃物が握られていた。
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