黒澤主任の甘いイジワル
昨夜作り上げた資料を抱え、早朝の街を車が駆け抜ける。
「黒澤さん、寝不足ですよね」
「まあ、でもこれくらい大丈夫。一条さんこそ、ずっと付き合わせて悪い。あんなに爆睡するとはね」
ふふっと笑う黒澤を、新菜はあえて無視した。
「いえ、私も笹内さんと担当していましたから。それに、現場は直接見ておいた方がいいですし」
きりりと新菜が言い切ると、「なんか怒ってる?」と黒澤が軽く視線を向けてくる。
「前、しっかり見てくださいっ」
新菜の言葉に、「はいはい」と黒澤はハンドルを軽やかに操作する。
「俺がいない間にずいぶん頼もしくなったね。笹内も『新菜さんになら安心して任せられる』って昨日電話した時、言ってたよ」
大型ショッピングモールが建設されるのは、高速のインターチェンジに近い郊外。黒澤の運転する社用車のSUVは、朝日を浴びながら高速道路へと滑り込む。
助手席で新菜は膝の上の資料を握りしめながら、密かに横顔を見つめた。
肘までまくり上げられたシャツから覗くのは、慣れた手つきでハンドルを操る黒澤の逞しい腕だ。動きに合わせてしなやかに浮き出る筋肉や、手の甲の血管。無駄のない造形に、思わず見惚れてしまう。
「……笹内って、一条さんのこと名前で呼んでたんだね」
知らなかったな、と黒澤が低くつぶやいた。
「笹内さんは同じ大学の先輩なんです。それを知ってからは、なんとなく親しみが湧いたというか」
「ふーん」
「笹内さん、いつも『俺は黒澤さんみたいになる』って張り切っていました」
「へー、そうなんだ」
黒澤はそれ以上何も言わず、わずかに強まったハンドルの握り具合に、新菜は気づかない。膝の上の資料に目を落とし、これから待ち受ける難所へ向けて、スイッチを仕事モードへと切り替えた。
「黒澤さん、寝不足ですよね」
「まあ、でもこれくらい大丈夫。一条さんこそ、ずっと付き合わせて悪い。あんなに爆睡するとはね」
ふふっと笑う黒澤を、新菜はあえて無視した。
「いえ、私も笹内さんと担当していましたから。それに、現場は直接見ておいた方がいいですし」
きりりと新菜が言い切ると、「なんか怒ってる?」と黒澤が軽く視線を向けてくる。
「前、しっかり見てくださいっ」
新菜の言葉に、「はいはい」と黒澤はハンドルを軽やかに操作する。
「俺がいない間にずいぶん頼もしくなったね。笹内も『新菜さんになら安心して任せられる』って昨日電話した時、言ってたよ」
大型ショッピングモールが建設されるのは、高速のインターチェンジに近い郊外。黒澤の運転する社用車のSUVは、朝日を浴びながら高速道路へと滑り込む。
助手席で新菜は膝の上の資料を握りしめながら、密かに横顔を見つめた。
肘までまくり上げられたシャツから覗くのは、慣れた手つきでハンドルを操る黒澤の逞しい腕だ。動きに合わせてしなやかに浮き出る筋肉や、手の甲の血管。無駄のない造形に、思わず見惚れてしまう。
「……笹内って、一条さんのこと名前で呼んでたんだね」
知らなかったな、と黒澤が低くつぶやいた。
「笹内さんは同じ大学の先輩なんです。それを知ってからは、なんとなく親しみが湧いたというか」
「ふーん」
「笹内さん、いつも『俺は黒澤さんみたいになる』って張り切っていました」
「へー、そうなんだ」
黒澤はそれ以上何も言わず、わずかに強まったハンドルの握り具合に、新菜は気づかない。膝の上の資料に目を落とし、これから待ち受ける難所へ向けて、スイッチを仕事モードへと切り替えた。