ブルー・ディスタンス~君の特別になりたかった私は、最初から君の特別だった。~

①ー❷

席替えから一週間が経ったけれど、私のチキンハートは健在だった。
すぐ目の前に律くんがいるのに、私は相変わらず「おはよう」の一言すら言えない。
ただ、彼の背中越しに流れる時間を感じるだけで精一杯だった。

そんなある日の放課後。
私は委員会の集まりで遅くなり、詩織を先に帰らせて一人で下校していた。
昇降口に向かって階段を下りていくと、下の方から何やら騒がしい声が聞こえてくる。

「ねえ、ちょっとだけでいいからLINE教えてよー」
「……しつこい。興味ないからどいて」

他クラスの少し派手な男子生徒二人組が、誰かを通せんぼするように囲んでいた。
困り果てて顔を伏せているのは――詩織だ。

(詩織……っ! 助けなきゃ、でも、私なんかが行っても……)

身体がすくんで動けなくなったその時、私の横を静かにすり抜けていく影があった。

「そこ、邪魔なんだけど」

低く、涼やかな声。
律くんだった。彼は何でもないことのように、詩織と男子生徒たちの間にスッと割って入ったのだ。
男子生徒たちは律くんの背格好と、その冷ややかな眼光に一瞬怯み、「チェッ、なんだよ」と捨て台詞を吐きながら去っていった。

「……大丈夫?」

律くんが振り返り、詩織に声をかける。
詩織は顔を真っ赤にして、コクコクと頷くのがやっとのようだった。
「気をつけて」とだけ言い残し、律くんはそのまま自分の靴箱へと歩いていく。

階段の陰からそれを見ていた私は、じわじわと胸に広がる焦燥感に気付かない振りをしながら、ただ自分の手を強く握りしめていた。
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