ブルー・ディスタンス~君の特別になりたかった私は、最初から君の特別だった。~

⑤ー❶

図書室の窓際、並んで座る私たちの間には、まだ少しだけの緊張感が漂っていた。
けれど、もうそこにあるのは冷たい距離ではない。お互いの体温を感じるほどの、温かくて、少しくすぐったい距離だ。

「……市乃瀬さん、俺のこと避けてただろ」

律くんが文庫本をパタンと閉じ、少し拗ねたような目で私を見た。

「あ、う、うん……。ごめんなさい」
「なんで。俺、なんか嫌われるようなことした?」
「違うの! 嫌いじゃなくて……」

私は慌てて手を振った。その勢いのまま、ずっと胸に溜めていた言葉が溢れ出す。

「その……私の友達が、律くんのこと好きだって言ってたから。私、話したこともないし、その友達の邪魔したくなくて……。だから、諦めなきゃって、見ないようにしてたの」

私の必死な告白を聞いた律くんは、ぽかんと呆気に取られた顔をした後、深くため息をついて額を手で押さえた。

「やっぱり……。夏美の言った通りだ」
「え?」
「俺、市乃瀬さんに少しでも近づきたくて、高梨さんに色々聞いてたんだけど……。それが逆効果になってたのか。マジで、何やってたんだろ、俺」

耳まで真っ赤にして自嘲気味に笑う律くん。その姿が、普段のクールな彼からは想像できないほど不器用で、愛おしくて、私の胸は甘い痛みでいっぱいになった。

「あの、律くん……」

初めて彼の名前を直接呼んでみる。響いた音に、律くんがびくっと肩を揺らした。

「市乃瀬さん、今、なんて……」
「あ、えっと、律くん、じゃダメ……?」
「いや、めちゃくちゃ嬉しい。……もう一回呼んで」
「っ、からかわないで!」

赤くなる私を見て、律くんがふっと柔らかく笑った。初めて見る、彼の心からの笑顔。
それだけで、この三ヶ月間の苦しさが、全部消えていくような気がした。

「俺さ、入学式の日に市乃瀬さんを見た時から、ずっと気になってた」

律くんは静かに、でも真っ直ぐに私を見つめた。

「廊下の隅で、いつも静かに誰かを応援してたり、優しく笑ってたりする姿。席替えで後ろの席になれた時、本当は心臓が止まるかと思うくらい嬉しかった。……でも、話しかける勇気がなくて。そうこうしてるうちに避けられて、嫌われたと思って、本気で凹んでた」

「私も……同じだったよ。近すぎるのに、話しかけられなくて、毎日律くんの後ろ姿ばっかり見てた」

重なる、二人の本音。
ずっと届かないと思っていた彼の視線は、最初から私だけを追いかけてくれていたのだ。
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