ブルー・ディスタンス~君の特別になりたかった私は、最初から君の特別だった。~

②-❷

数日後。予報になかった激しい雨が、放課後の校庭を濡らしていた。

「うわ、最悪。傘持ってきてないや……」

傘立ての前で、私は立ち尽くしていた。
詩織は「先に帰るね!」と、すでに別の友達の傘に入って帰ってしまっている。
静まり返った昇降口で雨音を聞いていると、背後からスッと人影が近づいてきた。

律くんだった。

彼はカバンから黒い折りたたみ傘を取り出し、慣れた手つきで開こうとしている。
その手元に、見覚えのある文庫本が挟まれていた。
私がずっと読みたいと思っていた、大好きな作家の新作小説。

(あ、あの……その本……)

喉まで言葉が出かかった。
「私もその作家さん好きなんです」
「もう読みましたか?」
ただそれだけの、たった一言。

けれど、私の脳裏に「応援する」と約束した詩織の笑顔がよぎる。
私なんかが話しかけて、もし仲良くなってしまったら?
それは詩織を裏切ることになるんじゃないか。

「……っ」

私はぎゅっと唇を噛み締め、律くんから目を逸らした。
律くんは一瞬、私の方をじっと見つめていたような気がしたけれど、やがて何も言わずに雨の中へと歩き去っていった。
ただ雨の匂いと、私の臆病さだけがその場に取り残された。
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