花に溺れ、香りに溶ける
「詳しいことは、私から言えないな。あの子の口から聞いた方がいいだろう。でも一つだけ言えるのは――私は、あの子の願いを聞き届けたことを、後悔していないということだよ」
その言葉の温かさに、少しだけ肩の力が抜ける。
郁斗さまは、いたずらっぽく肩をすくめた。国宝級と呼ばれる大家の、思いがけず人間味のある一面に、私は少し驚きながらも、親しみを感じずにはいられなかった。
「これからも、碧斗をよろしく頼むよ。あれで、不器用なところがある子だから」
郁斗さまが会釈をして去っていくのと入れ違いに、今度は凛とした声が背後から響いた。
「美寿さん、いらしていたのね」
振り返ると、そこには見紛うことのない気品を纏った女性――百合乃さまが立っていた。
碧斗さまの端正な顔立ちは、この人譲りなのだと一目で分かる。凛として隙のない佇まいは以前挨拶をしたときよりも、さらに研ぎ澄まされているように見えた。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
深く頭を下げると、百合乃さまは扇子を静かに開きながら、私を上から下まで、ゆっくりと検分するように見つめた。