花に溺れ、香りに溶ける



「佐山流のお嬢さんは、香道の腕前もさることながら、立ち居振る舞いも見事だと聞いていたけれど……なるほど、噂通りね」


 その声には、褒め言葉らしい響きがありながら、どこか値踏みするような硬さも滲んでいた。


「中許を取得されたのは、いつだったかしら」

「昨年の審査です」

「早いわね。十七歳で中許となると、佐山流の中でもかなり早い方だと聞いているわ。……お兄様の煌太さんは、確か二十歳を過ぎてからだったかしら」


 その質問には、ほんのわずかに棘があるように感じられた。兄と比べられることには慣れているつもりだったけれど、こういう場で持ち出されると、やはり胸がざわつく。


「兄は、私よりずっと丁寧に、基礎から積み上げてきた人です。早さだけで測れるものではないと思っております」


 私がそう答えると、百合乃さまは、意外そうにわずかに眉を上げた。


「……なるほど。お行儀の良い答えね」

「碧斗との婚約、正式に発表する時期が近づいているの。美寿さんには、これから月森の家の一員としての自覚を、より強く持ってもらうことになるわ」

「はい。精一杯務めさせていただきます」

「精一杯、ね」


 百合乃さまは、微かに口の端を上げた。それが笑みなのか、それとも別の何かなのか、私には判断がつかなかった。


「碧斗はあなたのことをとても気に入っているようだけれど、あの子の気持ちだけで、この縁談が決まったわけではないということは、覚えておいてね」



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