花に溺れ、香りに溶ける



 私と矢花さん、お客さんたちみんなで一緒におじぎをした。矢花さんは、記録用の道具を並べ始める。

 私は、用意していた道具と答えを書く紙をお客さんの代表である上客に渡した。そこに座っている兄は、深くおじぎをした。


「ありがたくいただきます」


 自分の分の紙を取ってから、道具箱を隣の人へ丁寧に渡していく。自分に向いていた面を時計回りにまわして、相手のほうに正面を向けてから両手で渡す。受け取る人も、正面が自分のほうを向いた状態で両手で受け取る。

 それを見て、私は香りをかぐための道具が置いてある場所である香棚へ決まった歩き方で向かった。

 お盆を持つときは、両手の親指をお盆のふちの上にまっすぐ添えた。残りの4本の指でしっかり底を支える。お盆はいつも胸の高さで持ち、体でしっかり支えて、道具が揺れないように気をつけながら決まった歩数で歩く。

 目的の場所に着いたら、足を一歩踏み出してから両ひざをついて、静かに座った。

 私が動くたびに、みんなの視線を感じる。でもこれは今に始まったことじゃない。稽古を始めた頃からずっとそうだ。

 ふすまの開け方や部屋への入り方は、礼儀作法の稽古として三歳のときから練習してきたことだ。



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