花に溺れ、香りに溶ける




 炭の熱が均一に伝わるように高さをそろえたら、別の香箸に持ちかえて、灰の山の斜面に息を止めて一気に線を引く。最後に、山の頂点から炭に向かって、熱を逃がすための小さな穴を垂直に開けた。

 使い終わった道具は、そでを軽く押さえながら布の左奥にある道具立てに静かに戻した。そして、銀葉を取るために右奥の箱に手を伸ばし、専用のはさみを持つ。

 銀葉を1枚、きれいにつまんで取り出す。灰の山の頂点に、銀葉が水平になるよう息を整えて静かに置いた。はさみを箱に戻し、炭の熱が銀葉に伝わるのを少し待つ。



「では、試香を始めます」

 試香用に包まれていた香木を取り出し、銀葉の上に置いた。香炉を両手で持って、一度自分で聞く。それから時計回りに回して、正面をお客さんのほうに向けて差し出した。

 今日の香り遊びは「寝覚香」。練習用の香りは【碪(きぬた)】【鹿】【虫】の3つだ。


「1つ目、碪でございます」


 兄は右手で香炉の右側、左手で左側を支えるように持つ。胸の高さまで静かに持ち上げ、感謝の気持ちで軽く頭を下げた。
 右手で香炉のふちを軽く覆い、親指と人差し指の間に小さなすき間を作る。そのすき間に鼻を近づけて、息を3回に分けて静かに吸い込み、香りを覚える。

 自分の吐く息が香炉にかからないように、息を吐くときは必ず顔を横に向けてかわす。
 かぎ終わったら香炉を時計回りに回し、正面を次の人に向けた。



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