花に溺れ、香りに溶ける
試香がすべて終わったこの瞬間、矢花さんがお客さんに向かって「お名前をどうぞ」と静かに声をかけた。
この合図で、お客さんたちは筆で自分の名前を紙に書き入れ始める。書き終えたら紙を折りたたみ、代表の人から順にまとめて、記録係に提出した。
紙が集まっている間に、私は本番用の香りの包みを開ける。本番用の【碪】【鹿】【虫】をそれぞれ2つずつ、合計6つの包みを台の上でよく混ぜる。
寝覚香のルールでは、混ぜた6つの中から3つだけを選んで使い、残りは使わない。
選んだ3つに、練習していない新しい香り【枕(まくら)】を1つ加えて合計4つを改めてよく混ぜて本番の準備が整った。
混ぜた包みから1つ目の香木を銀葉に載せた。
「本番、1回目です」