花に溺れ、香りに溶ける




  ***


 香りの会が終わった私は、すぐに茶室に向かった。

 これから、茶室の床の間の掛け軸などを、次のおもてなし用に飾り直さなければいけないからだ。

 掛け軸は【明月払清風(めいげつせいふうをはらう)】という言葉が書かれたものを選んだ。秋の澄んだ夜空に輝く満月と気持ちのいい涼しい風、という意味のとても格式高い言葉だ。

 今日の寝覚香の風の音や秋の夜の美しさにぴったり合う。その下には、椿のつぼみに、色づいた葉っぱを添えた花を飾った。

 さらに、さっき書き上げた今日の記録用紙を、床の間のわきに美しく飾り、お茶を飲みにきたお客さんが見られるようにした。

 準備が整ったので、控え室から銅鑼という楽器を静かに鳴らし準備ができたことをお客さんに音で知らせた。お客さんが茶室の入り口まで来たのを見て、私は静かにふすまを開け、お客さんと目を合わせて無言で深くおじぎをする。

 私の無言のお迎えを受けて、手伝いの矢花さんたちがお客さんを部屋の中へ案内し上の人から順に座っていった。
 全員が座ったのを見届けてから、私はあらためて座り直す。



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