花に溺れ、香りに溶ける



「あなたには、覚悟はあるのかしら?」

「……覚悟?」

「美寿さんを、いえ、佐山蓮水さんをお嫁さんにもらう覚悟よ……あの子は、何をやらせても完ぺきだった。香道も、茶道も、流派は違えど華道も。それに、千年以上続く佐山家で、たった3人しか名乗ることを許されなかった名前を持っている人。あなたはこれから先、ずっと彼女の隣に立ち続けることになるのよ」


 碧斗は言葉に詰まった。


「自分より優れた人が隣に立つということはとても辛く苦しい。超えることはできないかもしれないという思いを抱えながらそれでも努力しなくてはいけない。それにあなたは華道を生業にしてきた月森の人間で次期家元。あなたは、郁斗さんの息子としてこれまでずっと期待されて、天才だと言われてきたわ」

「それは……」

「碧斗は、彼女に嫉妬しない自信、本当にあるかしら? 自分より評価される奥さんを持つことになる。自分の存在が彼女の影になり目立たなくなるかもしれないということ。それでも、今のように対等でそのままいられる?」

「……対、等」

「好きなだけでは、どうにもならないことがあるのよ。碧斗」


 母の声は静かだったが、有無を言わせない強さがあった。


「正直に言うわ。私はね、最初この結婚の話に反対していたの」

「……知ってます。國宗さんから聞きました」

「美寿さんが悪いんじゃないのよ。あの子は、噂で聞いた通り誰から見ても素晴らしい人だもの。普段の様子からは考えられないけど……問題は、あなたのほうにあると思っていたから」


 碧斗は思わず顔を上げた。



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