花に溺れ、香りに溶ける




 物心ついた時から、煌太は次の家元になる人だった。父のあとを継ぐ者として、幼い頃から厳しく稽古を受けてきた。
 美寿より年上で、いつも兄としても香道家としても妹の前を歩いてきたはずだった。

 けれど、いつからだろう。

 美寿が自分の背中を追い越していったのは。彼女は物心着く頃から習ってきた作法。10歳になる頃には、美寿の動きはもう煌太を超えていた。

 父はそれを喜んだ。いや、美寿だけじゃない。自分の時も喜んでくれていた、同じように。

 だけど、どんどん周りも美寿に期待を寄せていく。

 美寿が聞香の基本所作が身についたとされる初許に合格したと聞いた時、

 美寿が茶道の稽古を始めたと聞いた時、そして茶道の初級を取得したと聞いた時、

 美寿が華道も始めたって聞いた時、本科を卒業して師範科に進んだと聞いた時。


 そして、周りの期待の目は美寿になっていくのもわかった。彼女は才能の塊だった。

 跡取りなのに妹より秀でてない俺を誰も、責めなかった。それでも、気づいていた。父の目が、俺を見る目と美寿を見る目が違う色になることを。





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