花に溺れ、香りに溶ける
そして、美寿は期待通り佐山蓮水という名を授かった。
その名前を継げるのは、佐山の血を引く認められた「女性」だけ。次の家元がどれだけ努力しても、決して手に入れられない名前だ。
だから最初は、単純にうらやましいだけだった。
自分には決して許されない名前を、妹が軽々と受け継いでいくことが。
でも、それだけじゃなかった。
美寿が香りを聞く姿を見るたびに、煌太の胸には、言葉にならない気持ちが渦巻いた。
誇らしさと、嫉妬と、そして――もっと別の何か。
俺は、家元になる。血筋だから、長男だから。努力したからじゃない。決められていたから
美寿は、選ばれた。血筋でも、決められていたからでもなく、あの子自身の力で
その違いが、煌太にはずっと重く感じられた。
優しい妹。誰よりも一生懸命、稽古を積んできた妹。それを知っているからこそ、素直に喜べない自分がいやだった。
「……兄様?」
声に振り向くと、普段の美寿が立っていた。片付けに来たのだろう、道具を抱えていた。