花に溺れ、香りに溶ける
「あ、美寿……お疲れ様」
「お兄様も、お疲れ様でした……今日は、お付き合いいただいて」
「いや。……今日の美寿、すごかったよ。本当に」
美寿は少し照れたように微笑んだ。その笑顔に、煌太の胸がまた小さく痛んだ。
「お兄様のほうが、いつも落ち着いていて素敵です。私は、まだまだで」
「そんなことないさ。美寿は……」
言いかけて、煌太は言葉をのみこんだ。
(美寿は、俺なんかよりずっと次期家元にふさわしい)
喉まで出かかった言葉を、笑顔の下に隠す。
「――美寿は、頑張り屋だよ。それだけで、もう十分すごいことなんだ」
「お兄様……ありがとうございます」
美寿は道具を片付け始める。その背中を見つめながら、煌太は静かに息を吐いた。
(碧斗くんには、悪いことを言ったな)
昼間、思わずこぼした「本当は、あの子が……」という言葉。
あの続きを、自分でもまだ言葉にできずにいた。
(本当は、あの子がうらやましい。本当は、あの子に嫉妬している。……でも、それ以上に)
美寿が香炉を丁寧にふく横顔を見る。真剣な表情、迷いのない指先。
(俺は、あの子の兄でよかったと、そう思ってる)
複雑に絡み合った気持ちに、まだ名前をつけられないまま、煌太はそっと目を伏せた。


