奇跡を起こすソーダ水

Chapter4 欲望と少年

 2026年12月9日、13時。
 カキーン……!カキーン……!
 真冬の公園に金属音が鳴り響いている。だがそれは何時間も続いているのか、近所の人や子どもたちが困った顔をしている。たまたま通りがかっていた幸人もその姿を見ていた。
「あれ、何やっているのかしらね?」
「あ……何かずっと野球やってて誰も入れないんですよ……」
 防寒着を羽織って野球の練習をしている。高校生のようにも見えるが、まだ断定はできない。もちろんだが、真冬の時期に試合などは行われない。野球の練習をしているだけならいいのだが、散らばった球は一切片づけられていないどころか、遊具がいくつか壊れている始末だ。
 カキーン……!
「あっ……危ない……!?」
 打たれた球が近くを歩いている子どもに向かってきた!軟式ボールとはいえ当たったらひとたまりもない。
 シュッ……
 幸人はコートをなびかせるようにダッシュを切る。
「あっ……ちょっと……!?」
 ガシッ……
 彼は顔面すれすれの距離に迫った球を素手で受け止めた。
「わぁ!早い女の人来たぁ!」
「大丈夫?パパとママは?」
「どこか行っちゃったの……」
 子どもは4歳くらいの男の子。迷子になってしまったのか。だが間を置かずして——
「おいどこ行ってたんだよ?」
「すみません……!ここは危ないから帰るわよ!」
 幸いすぐ両親に発見された男の子は彼に手を振って帰っていった。
 カキーン……!
 周りの安全こそ気にしていないが、表情はかなり必死だった。必死に練習しているのは理解できるが、せめて周りの迷惑くらいは考えてもらいたい。そう思った彼は水を差すように——
「ねえあなたたち!」
「何だ!?今大事な練習してんだ!邪魔すんな……!」
 やはり聞く耳を持ってくれないか。相手は高校生。確かに高校野球は皆の夢でもある。
「待て……あんたには悪いが、俺たちには、どうしても勝たなきゃいけねえ相手がいるんだ!」
「勝たなきゃいけない相手?」
「そうだ……チーム名はわからねえが、ついこの間挑戦状がうちに届いたんだ!聞いた話だけど、そのチームと戦った高校野球チームが、全員死んでいるらしい……」
「ああ!今日俺たちが勝たなきゃ高校野球は全滅……何としてでも勝たなきゃいけねえんだ!」
 ユニフォームには『雪泉高校』と書かれている。グレイシャーズの4番選手、バンディッド悠介の出身校でもある超強豪校。最近アイドルグループやプロ野球の関係者が亡くなる事件が相次いでいるが、まさか高校野球にも被害が及んでいるのか?だがこれも乗りかかった船だ。すると彼は唐突すぎる提案をしてみた。
「うんうん……お兄さんたちの話はわかったわ。でも、あなたたちのような強豪校が顔も知らない奴らの挑発に乗るかしら?」
「あん?」
「それに、死ぬとわかっている試合に臨むのと、皆の夢を守るのは意味が違うわ……死んじゃったら、誰が夢を叶えるの?」
 ビュン……!
「おっと……」
「どこの誰か知らないけどなぁ!それだけ俺たちには背負ってるものがあんだよ!」
 幸人は目の色を変える。
「フフフ……やったわね?当たったら高校生でも警察行きだってのに……ここはちょっとわからせる必要がありそうね?」
「何するってんだ……!?」
 彼は軟式ボールを拾うと——
「僕が投げた球を打つことができれば、僕は何も言わないわ……あなたたちの好きなようにすればいいわ」
「何だと……?お前本気で言ってんのか!?」
「本気よ……男に二言はないわ」
「……!?……男?」
「さあ!この中で一番ホームランを打つ子は誰かしら?」
 この発言に対して選手たちは顔を見合わせた。1分後にやっと名乗り出たのは——
「いいぜ……!俺がやってやるよ」
 選手の名前は宮田 慶太(ミヤタ ケイタ)。雪泉高校3年生の名選手だ。慶太は自信に満ちた表情で打席に立つ。幸人はマフラーとコートを脱がないままグローブを着用し、ピッチャーマウンドに立つ。
「さあいくわよ……キャッチャーの君!吹き飛ばされないよう……気をつけなさい」
 シーン……ピリッ……ビューン……!
 彼が投げた1球目は時速150kmのストレート!
「……何!?」
 バーン……!
「おわっ……!?何だこのストレート……」
 ストライク。
「まだ打ち返せるチャンスはあるわよ!さあ次いくわ……」
「ああ!来いよ……」
 ビューン……!
 2球目はカーブ。
 ブンッ……!バシッ……!
「くぅ……!?」
 空振りのストライク。先ほどまで余裕だった慶太の表情が一気に焦り出す。次の1球は何を投げるのだろうか?
「くそ……!次こそ打つ……」
 彼が投げた球は強豪校選手でも打てない魔球。慶太はこのまま打てず終わってしまうのか?
 ビューン……!
 投げられたのは時速130kmのストレート。慶太は球を見切ってバットを振った。果たして?
 カキーン……
 確かにバットは球に当たった。だが結果はファールだ。すると——
「当てたわね?」
 彼はそう呟くとグローブを外した。そのまま慶太に歩み寄り——
「何も言わない……とまでは言えないけど、僕の提案を聞いてくれないかな?」
「提案?」
 彼は静かに懐からソーダ瓶を出した。そのまま蓋を開けて慶太に差し出すと——
「僕をさ、その野球の試合に出させてよ?そうすればあなたたちは死なずに済むわ……おまけに、これ以上の犠牲も防げる。ああこれはね、飲むと元気になるソーダ水よ。飲みな?」
「ソーダ……?」
 悔しいが、必死に練習していても、死ぬかもしれない恐怖に立ち向かうのは嫌だ。選手たちは藁にもすがりたい気持ちでいっぱいだろう。それに慶太ですら打てなかった豪速球を見せられれば、彼は一気に信用される存在となった。
 ゴク……ゴク……
「美味いなこれ……」
 運動の後は味のない炭酸水でも美味しい。炭酸の刺激が喉を心地よく刺激する。慶太に飲ませたのは鉄分とタンパク質を含むソーダ水。試合に行くにはピッタリな1杯だ。
「焦らなくても全員分あるわ!さあ並んで……それで、飲んだら公園の人にちゃんと謝って、後片づけよ」
「……はい」 
 そのまま水分と栄養補給を終えた選手たちは、公園に入れなかった親子と管理人にきちんと頭を下げ、散らかった球を全て片づけた。

 数時間後の夜。幸人と雪泉高校の野球部員たちは、挑戦状に書かれていた住所の場所に向かっていた。しかし、住所が示していたのは、何もないような芝生のグラウンドだった。
「本当にここで合ってんのか?」
「油断しない方がいいわ……」
 ピリ……ピリ……
 何もない状況でも選手たちに緊張が走る。幸人は冷静に立ち尽くしているが、今の彼は選手たちの命を預かっている身。危険にさらすわけにはいかない。
 ガチャ……!ウィーン……!
 突然地面から機械音が鳴り響き、芝生がエレベーターのように降下していく。
「おい何だこれ……!?」
「おいおいおいおい……!?」
「落ち着いて……!」
 降下していくたびに暗くなり、そのまま天井が閉じてしまう。
 ガチャン……
「とと……止まった……!?」
「まだ動かないで……」
 パシャッ……!
「眩しっ……!?」
「……」
 犠牲になった選手たちはこの地下で亡くなったのか?幸人はルートがつながっていると思われる通路を歩き出す。そのままドアが見えたのでゆっくりと開ける。
 ガチャ……
「また真っ暗?」
「待って、誰かいるわ……それも一人二人ではなく、わんさか……」
 パシャッ……パシャッ……ウォー!
「これ……球場か……!?」
 こんな地下に野球場があるとは……それに観客らの雰囲気が普通じゃない。ただ野球の試合を観たいだけではなさそうだ。
「ようこそ雪泉高校野球部の皆様!お待ちしておりました!」
 彼らのもとへ歩み寄ってきたのはユニフォームを着た野球選手のような男。一見普通の選手にしか見えないが、この地下にいる時点で普通じゃない。
「この女性は誰でしょうか?」
「僕はピンチ……マネージャーよ」
 ピンチヒッターと言いそうになってしまった。ここはマネージャーにしておこう。そんな状況でも、彼はこの地下に何が隠されているのか見渡している。
「紹介が遅れました……私、ネクロスの生田 政明(ショウダ マサアキ)と申します。今日は、楽しい試合にしましょうか?」
 生田の後ろにはネクロスの選手たちが整列している。ダメだ……この状況だけでは高校野球の選手たちが亡くなっている理由がわからない。
「さあ……攻撃はどっちからいきましょうか?表でも裏でも構いませんよ?」
「それは……」
「僕たちは裏にします」
 幸人の判断により、雪泉高校は後攻になった。これで試合が始まるのなら、もう全力を出しても構わないわね……?
 パサッ……
 彼はマフラーとコートを脱ぎ捨てると、下に着ていた雪泉高校のユニフォームを露わにする。
「すみません……僕、マネージャー兼選手なんですよ。僕がピッチャーです」
「女が試合……フンッ……まあいいでしょう」
 試合開始。野球の試合でピッチャーを担うのは実に20年ぶりだ。しかし舐めてもらっては困る……彼は19歳から裏社会で殺しの技術を学んできた。当然、野球ボールより重いものだって投げられる。対する打者は柊木(ヒイラギ)という選手。完全に甘く見たような表情で微笑んでいる。
「……」
 今回の試合で試されるのは幸人と里田 大成(サトダ タイセイ)のバッテリー。大成が幸人にサインを送る。
 スッ……ビューン……!
「(フン……もらった……!)」
 ブンッ……!バシッ……!
「何……!?」
「ストライク!」
 少しばかり緊張していたが、いざ投げてみるとすぐに解ける。これまで腕がおかしくなるくらいナイフを投げたこともある。
 ビューン……!ブンッ……!バシッ……!
 その後も彼のピッチングは続き、3アウトまで空振り三振で1回表は終了。問題はここからだ。
「……」
 バッターの順は最上(モガミ)村西(ムラニシ)、幸人、そして宮田慶太。最初の打者にならなかったことが少し不安であるが、まずは様子を見るだけでいいだろう。だが、彼は既に死のトリックを見破っていた……
「……!(まさかあの球……!?)」
 ネクロスの投手が持つ球……何か赤く光っているように見える。すると彼は最上と村西に指示を出す。
「あの球絶対に打たないで……何とか空振り三振なり誤魔化してくれない?」
「何か八百長みたいですけど……」
「安心して?決して悪いようにはしないから……」
 過去に選手たちが犠牲になっている秘密が浮かび上がってくる。あの球に何かを仕込んでいることくらいわかっている。
 ブンッ……!バシッ……!
 彼の指示通り最上に続いて、村西も空振り三振の2アウト。ネクロスの選手たちは空振り三振に意外な反応を見せているが、幸人の口角は上がっていた。
「かっ飛ばすわ……」
 聞こえない声量で呟いた彼は打席に立つ。現状1回裏2アウト。
 スッ……
「フゥ……」
 バットを構えるときは楽に構えること。打つ前から力んではいけない。だが今回の打席ではホームランは狙わない。
 ビューン……!
「フッ……!」
 彼はストライクゾーンから外れたカーブを打つ!
 キーン……!
 球はセカンドの方向へ飛んでいく!はずだった……
 ガシッ……!
「おわっ……!?」
 彼はバットを手から離すとネクロスのキャッチャーの首根っこを掴み、そのまま盾にするように——
 ドガーン……!
「フフフ……やっぱりね……」
 先ほどから見ていたが、ネクロスのピッチャーは真剣に投げているように見えてヘマをしている。そんな球を投げられれば、ホームランのチャンスだと思って打つのは自然なこと。案の定慶太を含め雪泉高校の選手たちは驚きを隠せない。
「爆発した……!?」
「おいおいおいおい……!?」
「マジかよ……まさか!選手たちが死んだのって、これが原因なのか……!?」
 球の内部には、小型の破片爆弾が仕込まれていたようだ。爆風に巻き込まれたキャッチャーは即死。
「これで終わりとは言わないわよね?今のはファールね……」
「ぐぐぐ……!?」
 ネクロスはトリックを見破られて爆弾は使えないと思ったのか、何の仕掛けもない球を投げる。それに代わりのキャッチャーはあと一人しかいなさそうだ。
 キーン……!
 彼の打った球はライトへと飛んでいき2ベースヒット!これで2アウト2塁。続いてのバッターは雪泉高校のエース、宮田慶太だ。
 ピリ……ピリ……
 慶太は何かあるのではないかと強張った表情をしているが、幸人から『大丈夫だから』と言われているような目配せを見たら信じざるを得ない。だがこれでわかっただろう。ネクロスは本気で真面目に野球への情熱を注いでいる奴らではないことを。幸人はそんなネクロスを許せない。これは、野球への冒涜でしかないわ……!
「……!」
 慶太が左打ちに構える。小さい頃から憧れている右投げ左打ちのメジャーリーガーのようになりたくてずっと貫いてきた。幸人の投球はファールで終わってしまったが、ここでホームランを打たなくて何が宮田慶太だ?
「いくぞ……!」
 ビューン……!ブンッ……!
「……!?」
「ストライク!」
 力んではいけない……落ち着け……!今の俺には氷川さんがついてる……!きっと打てる!
 ビューン……!
「ふう……」
 キリッ……!
「おりゃあ……!」
 カキーン……!
 打球はライトスタンドへと飛び、段々と伸びていく……その打球は……?
 ゴォン……!
 2ランホームラン!これで雪泉高校が2点を先制した。やはり、この時点で大人しくするネクロスではなかった。
「ぐぐ……!死ね……!」
 カチャ……バーン……!
 生田は慶太の心臓を狙って銃を撃つ!
「フッ……!」
「うわっ……!?」
 先ほども言ったが、今の幸人は選手全員の命を預かっている。それに——
「慶太君はね……来年からグレイシャーズに入団するのよ……あんたたちなんかに、皆の夢は奪わせないわ……!」
「氷川さん……!」
「皆は逃げなさい!さっきの草エレベーターが動くわ……あとは僕の仕事よ」
「バカ言え!あのエレベーターは俺たちじゃなきゃ動かせないんだよ……!」
「心配無用よ。エレベーターの前にいた男の人は……」
 すると彼はスマホの写真フォルダから1枚の写真を見せた。そこに写っているのはエレベーターの前で死んでいる男。
「何!?貴様いつの間に……!?」
 実はエレベーターが降下した直後、幸人は暗闇に紛れて降下先にいた門番の首を折っていた。さらに門番の端末へ侵入し、脱出用のパスコードも入手していたのだ。
「わかった……!皆こっちだ!」
「逃がさね……ぐわ……!?」
「あの子たちを追いたいなら、僕を倒してからにしなよ?どうするの?相手は女よ……」
 相手は女一人。守備位置やスタンドにいたネクロスの者たちが、一斉に集まってくる。
「あんたたちは皆の夢を壊した挙げ句、多くの命を奪った……もう僕、絶対に許さないんだし!」
 ここは集団戦。バトルスタイルは零度を使おう。
「申し訳ないけど、あなたたちには死んでもらうわ……」
「安心しろ……死ぬのはお前だよ!」
「死ねぇぇ……!」
 相手は銃に金属バットか。零度の恐ろしいところは、相手の攻撃を何でも武器に変えてしまうことだ。例えば銃弾1発で一網打尽にできる戦法なら——
 フッ……
 拾った手榴弾入りの野球ボールをゆっくりめに投げる。幸人は相手の攻撃を完璧に読む天才だ。宙に浮いた球が被弾すれば——
 ドガーン……!
 至近距離で爆風に巻き込まれた選手の数人が死亡。だがこの程度の戦いは少しも面白くない。
「おらぁ……!」
 全力で振り下ろされたバットを、彼は片手で——
 ガシッ……!
 バットを受け止めてそのまま奪い取り——
「ホームラン!」
 ゴシャァ……!
「こぉ……」
 たった1発のフルスイングで首は垂直の向きに後ろへと折れた。華奢な身体つきからは想像もつかないパワーとスピード。残された選手たちは必死の命乞いをする。
「今まで殺したガキには皆謝る……!だから助けてくれ……」
「ダメよ……男なら掛かってきなさい?それに僕は、あんたたちのこと本当に許さないんだし!」
「ちくしょう……!おらぁ!」
 ドス……!ドス……!ゴシャァ……!
「さてと……監督さん?」
 生田政明を含むネクロスの選手は全員死亡。最後に残ったのは監督の田針 貞治(タハリ テイジ)。瞬きもせずに近づいてくる幸人に恐怖して逃げようとするが——
 ビュン……!ゴシャ……!
 球が脛に命中し、砕けたような鈍い音が響く。
 ビュン……!ゴシャ……!
「ううぅ〜……!?貴様……こんなことして、氷川さんが黙っていないぞ……!?」
「あら奇遇ね?僕の名前も氷川よ……」
「何……まさか貴様……!?」
 ガシッ……ミキキキ……!
「言いなさい……あんたたち、どうして高校野球の子を手にかけたの?何が目的よ!?」
「氷川さんは!私の中で最高のチームを作るって言ってたんだ……!それ以外はわからない……だから、この施設を作ってガキを誘き出したんだ……!」
「ふむふむ……ところであんたさ、本当に反省しているの?」
「反省している……!警察には自首するから……頼むから殺さないでくれ……!」
「ふむふむ……じゃああんたたちが殺した子たちの御遺体とユニフォーム……遺品の場所を教えたら、助けてあげるかも……」
「遺体はもう魚のエサだ……!遺品は全部あっちの部屋にある!」
 キリキリ……!
 幸人は目の色を変えて首根っこを握る手に力を込める。
 ドサッ……!
「うわっ……!?これで助けてくれるんじゃなかったのか……!?話と違う……!」
「もう許さないんだし……あんた、ちっとも反省していない……もう殺っちゃうんだし……!」
 彼は田針を練習場の壁に縛りつけると、カゴいっぱいに入った野球ボールを1球掴み——
「カーブとか投げて練習したいんだけど、僕もう面倒くさいからストレートで許して?ついでにこのソーダ水もストレートよ……」
「何だよそれ……ゴボゴボ……!?」
「このソーダ水は痛みを5倍に跳ね上げる効果があるのよ。だから、その状態で投げられると……?」
「痛みが5倍……!?ま……待てぇ……!?」
 ビューン……!ゴシャァ……!
「ぎゃあー……!!うわぁ……!痛ぇ……!何なんだよこれ……!?」
 絶え間なく投げられた球が身体中に命中し、増幅した痛みによって咆哮を超えた叫び声を上げる。
 ゴシャァ……!
「ああ〜……!!玉が……!?」
「あらごめんなさい!僕ったらピッチングセンスないんだからぁ……ちんちんに当たっちゃった……」
 彼は腕のストレッチをしながらゆっくりと近づくと——
「あんたは皆の夢を奪い、夢を叶えたい想いすら食いものにした……もう許さないんだし……」
 カチッ……
 手榴弾の安全ピンを抜き、田針の足元へ置く。
「金玉も身体も……」
 ドガーン……!
「ドッカン……」
 こうして田針貞治は幸人の投げた球を全身に何度も受けた上、最後は手榴弾の爆風と破片を喰らって死んだ。
「ふぅ……久しぶりの投げ込みだったから筋肉を冷やさないと……でもその前に」
 田針が指差していた部屋はリラックスルーム。そこに選手たちの遺品があると言っていたが、果たして?
 ガチャ……
「……これは」
 そこに置かれていたものは、『エルピス学園』や『札幌白夜高校』などのユニフォーム。それに選手が使っていたと思われるグローブにバット。これらは全て遺族に返すべきだろう。彼は遺品を全て回収して脱出すると、匿名で警察へ通報した。そして、エレベーターにつながる芝生の上へ遺品を丁寧に並べた。

 約1時間後の23時、警察が現場へ到着した。その後、身元が確認できた一部の被害者については遺族へ連絡が入り、近隣に住む家族たちが現場を訪れた。遺体ではなく遺品を前にした両親、兄弟姉妹……そして恋人。全員が涙している。
「おかえり……絢斗……天国に行こうね……」
「お兄ちゃん……!うわぁ~……!」
「どうして死んじゃったの……!?」
 その姿を静かに見守る幸人。僕はただこれ以上無念を増やしたくなかっただけだから……お礼なら、雪泉高校の野球部に言ってちょうだい……あくまで僕は脇役よ。
「……」
 しかし、まさか自分の父親が関わっているとは……前々から裏があるとは思っていたが、これほどの暴挙に出るなんて……それでも高校野球の連続殺人事件は幕を閉じた。だが、彼はまだ知らなかった。これは恐ろしい陰謀の、氷山の一角にすぎないことを……
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