愛しいひと――く ち な し身代わりの恋(番外編)
 こうやって会えるのは幸せなはずなのに。
 もっと、“家族”として近くなりたいと思うのに。

 時々、過去を思い出して、踏ん切りがつかなくなる。
 それでも。

「私達に、地元に戻れと言ってるの?」

「難しいかな? 週に一度、こうやって会えるだけでもいいんだけど」

「……楓に転校はさせたくないわ」

 関係が″婚姻″じゃなくてもいいと分かってはいるけれど。
 ズルズルと恋愛の形を引きずって、梓を宙ぶらりんにしておくのも心配だった。


「そうだな、転校は可哀そうだな」

 別にサラリーマンでもないし、家族手当てがどうとか関係ないもんな。
 梓も、この街で仕事を見つけて生計を立て頑張っている。

 俺は、買ってきていた指輪を、バッグから出す事もなくその夜は、帰ろうとしていた。


「おじさん、台風がきたよ」
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