冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい
恭司side
二十五年前。
異母弟・順一と一緒にこっそり飼っていた黒猫が死んでしまった。
おいおいと泣きわめく順一とは対照的に、恭司は泣きもせずに無表情のまま黒猫を弔った。
白猫を抱く義母がヒステリックに恭司のことを責めたててきた。
『順一に汚い猫を飼うように命じときながら、いざ猫が死んだら泣きもせん。ほんまに冷たい子どもや』
喚き叫ぶ母の元から逃げ出すように、父が部下の生まれたての赤ん坊に会いに行くぞと、幼い恭司のことを連れだしてくれた。
『すまんな、義母さんの癇癪をどないもできんと』
父にそう言われたが、恭司は無言のままだった。
諦めていた。
もうずっと叫ばれ過ぎていて、心を閉ざしていた。
唯一心を開ける存在が黒猫だった。
黒猫の世話を通してなら、異母弟とだって会話が出来た。
けれども、死んでしまった。
『猫のことは残念やったな』
父が話しかけてきたので、『そうだね』とだけ返した。
父子の会話にしてはとても拙いものだった。というよりも、血は繋がっているけれど、過ごした時間があまりにも乏しすぎて父子にすらなれていなかったようにも思う。
同い年ぐらいの父子なら、父が子の手を引くことだって多い気がするが、恭司の父が恭司の手を引くことはない。
(ぼくに触れられるのは、黒猫のあいつぐらいだったのに)
母とはもう随分会っていない。
幼稚園教諭だって――すぐに癇癪を起こしていた当時の恭司に触れてくることはなかった。
だからこそ、何者かとの貴重な触れ合いだったのに。
(仕方がないか)
そうして――辿り着いたのは、近所の産婦人科だった。
小さい子どもは感染源になるからあまり連れてくるなと言われて入れない施設も多いが、そこは子どもの出入りも出来る場所だった。
『新宮社長、女の子だったんですよ』
父が部下と喋りはじめた。
部下の妻が腕に抱く小さな赤ん坊を恭司に見せてくる。
「どうぞ」
恭司は目を見開いた。
生まれたてなのに、さらさらでツヤツヤの黒髪に既視感を覚える。
最近亡くなった黒猫の姿と重なって、幼い恭司はそっと手を伸ばした。
すると。
「あ」
赤ん坊がそっと恭司の指を握り直してくるではないか。
黒猫以来、久しぶりに何者かと触れ合った気がする。
指先から胸の内へと温かなものが拡がっていくかのようだ。
そうして――。
「みお」
幼い恭司は思わず亡くなったばかりの黒猫の名を呼んでしまった。
すると、赤ん坊の母親が嬉しそうに微笑んだ。
「可愛い名前ですね。女の子だから、この子にピッタリ」
そうして――赤ん坊の名前は美桜になった。