冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい
ちょうど、その時。
「みゃあっ!」
黒猫ミオが飛び出してきた。
「ミオちゃん、どうしたの?」
ミオの視線の先を見ると――。
「あ!」
新宮環の飼い猫のふくよかな白猫が建物の二階から顔を出していた。おそらく飼い主を追い掛けてきたのだろう。
どうやら老猫のようでよたよたしている。
そのまま身体を乗り出すと――落下しはじめる。
「あぶない!」
美桜は反射で体を動かした。
周囲の人間たちが息を呑んだ。
手を伸ばすが間に合わない。
そう思った瞬間。
「おっと」
美桜よりも先に猫の真下に辿りついた恭司が白猫をキャッチしていた。
「良かった!」
美桜は恭司から白猫を渡されると抱きしめる。
「あなたもミオちゃんみたいにふわふわね」
白猫が嬉しそうに一声鳴くと、新宮環へと視線を移す。
飼い猫を追ってきたのだろうが髪を振り乱して肩を揺らしていた。
その場を動けなくなっている環のそばへと、美桜はゆっくりと近づいていった。
(恭司さんに意地悪をしたこの人のことは好きじゃないし、本当はたくさん言ってやりたいことはある。だけど……)
きっと白猫は環に可愛がられて育ったのだろう。彼女を見て嬉しそうにしていた。
(白猫ちゃんが大事に思っている飼い主さんのことを、わざわざこの白猫ちゃんの前で悪く言う必要なんてないもの)
そうして……。
「はい、どうぞ」
すると……。
新宮環が瞳に涙を浮かべながらポツリと呟いた。
「……清香」
その時。
「梅田の嬢ちゃんは心が広いんやな」
玄関から和装の老人が姿を現した。そばには美桜の父もいる。
(この人……!)
老人を見て美桜は目を真ん丸に見開く。
なぜなら、公園で出会った黒猫ミオの元飼い主だったからだ。
「あなた……」
新宮環の呟きを耳にして、美桜はハッとなる。
そうして、老人に向かって声をかけた。
「恭司さんと新宮部長のお父様だったんですね……!」
すると、老人がハハっと豪快に笑った。
「やっぱり気づいとらんかったんか。梅田の美桜ちゃん、生まれた時からずっと儂だけが知ってたみたいやな」
美桜に恩義があるというのは――黒猫ミオの飼い主になってくれたからということだったのだろう。
恭司がポツリと呟いた。
「もしかしたらとは思っていたが、親父のことだったんだな」
そうして、和装の老人――新宮家の現当主・新宮譲之助が妻を眺める。
「環、お前に話がある」
新宮環が身体をびくつかせた。
――夫が妻を叱ったりするのだろうか?
美桜は咄嗟に新宮環を庇った。
「ミオちゃんの元飼い主さんは新宮家のご当主さんかもしれないんですけど……新当主になった恭司さんが、お義母さんのことは断罪しないと話していました。だから、皆の前で怒るはやめてほしいんです」
譲之助が話を続ける。
「だが、美桜ちゃんの父ちゃんも風評被害は受け取るんやで? そもそも梅田はショックを受け取ったんや。美桜ちゃんが噂で悲しんでいるのに気づいてやれなかった、自分のせいでこんな事態になったって。それでも怒らんでええんか?」
けれども、美桜は首を横にふるふると振った。
「噂に流された私も悪いんです。それに……あの噂のおかげで……というには、さすがに傷ついてしまいましたし、今もまだ怖いですけれど――ちゃんと自分の好きなように生きようって、そう思ったし……自分は噂に流されずにちゃんと自分の目でみたことで相手のことを判断しようって思えました」