冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい
恭司は続ける。
「だんだん大人になるにつれて、弟とも疎遠になった。俺は旧い体制の家にうんざりして、成人したら速攻で海外に渡った。今名乗ってる御影っていうのも、母親の旧姓だ。それからは一人で色々金を稼いで、あっちの大学に通った。卒業してからは、元の家からは離れて、一人で起業したんだ」
「そうだったんですね」
美桜の目頭がどうしようもなく熱くなってくる。
「そういやあ、俺のゼミの恩師が親きどってうるさかったが、最近いよいよ亡くなってな。ちょうど黒猫を飼い始めたって言ってたし、あんたに懐いていた黒猫が印象に残ったんだ。だから、ついつい日本に帰ってきて、あんたに似てるなってあいつを拾っちまった」
恭司はゴロゴロしているミオを優しい眼差しで見つめていた。
もしかすると、ドイツで泣いていたのは――親代わりを務めてくれていた恩師が亡くなったからなのだろうか?
美桜は胸の前で自身の手を合わせて握りしめた後、そっと恭司の片手を両手で握りしめた。
「なんだ……って、どうした?」
気付いたら、美桜の瞳からは涙がポロポロと零れていた。
「恭司さん、ずっとお一人で頑張ってこられたんですね」
「あんた……」
「……噂のせいで孤立したことがあるから分かります。なんだか一人ぼっちで辛くて、誰の言葉も耳に入ってこない感じがして……あんな状態が子どもの頃にずっと続いていたんだって思ったら、なんだか涙が出てきてしまって」
「おいおい、俺はもう今更気にしちゃいないって。大人の事情に振り回されたなって思いはするがな……」
「ですが……」
すると。
恭司が美桜の手を握り返してくる。
「俺の代わりに泣いてくれてありがとう」
「恭司さん……」
「もう俺には守るべきものが出来た。だから、俺は強くなれる。過去に振り回されずに生きていける。まだ時々思い出すことはあるが、周りの色んなことに左右されずに俺のことを見ようとしてくれる奴が、たった一人で良い、そばにいてくれるなら、それだけで俺は前を向いて歩ける」
彼の思いが伝わってきて、彼女の涙はまた溢れはじめる。
恭司が美桜の涙に唇を落とした。
「そういえば、どうして急にそんな大事な話を私にしてくれたんですか?」
すると。
恭司が寂しそうに微笑んだ。
「あんた、自分のことを好きになってくれるなら、どんな猫でも好きだって言っていただろう? だから、話してみたくなった」
ドイツでそんな会話を交わした。
『だが、あんただって同じ猫なら、さっきの薄汚れた野良猫みたいなのじゃなくて、皆に愛されて育った高貴な猫を選ぶだろう?』
『いいえ、私は単純だから、自分に懐いてくれる猫が好きです』
『……高貴だが、色んな奴らから疎まれているような猫でもか?』
『はい、もしもその猫が私のことを好きだって言ってくれたら、私もきっと好きになると思います』
美桜は胸が苦しくなる。
(意地の悪い質問だって思っていたけど、あの時、恭司さんは自分のことを話していたんだ)
恭司が美桜の髪を優しい手つきで梳いてくる。
すごく熱の籠もった眼差しで見つめられると、心臓がドキドキして落ち着かない。
「俺は母親を捨てた父親みたいには絶対にならない。一人の女性を不幸にはしない。そう決めている。だから……」
そうして――恭司が美桜の頬に片手を添えると、そっと口づけてくる。
しばらく啄むだけの口づけだったが、次第に深い口づけに移行していく。
触れている唇の先から、彼の熱情が伝わってくるようだ。
「俺があんたの世話をずっと見てやるよ」
煌めく星の下、恭司が美桜に優しく囁いてきたのだった。