泡沫の月に幽玄の狼

「お、狼王子って···、まさか―――」

わたしが驚き言葉に詰まっていると、美貴はまるでドラマのワンシーンを見て興奮するかのように「そう!あの、伊神(いがみ)くん!」と言って、目を輝かせていた。

―――伊神くん···

美貴の言う"伊神くん"とは、高校時代に一匹狼のように孤独を好み周りに誰も寄せ付けなかった伊神絃士(いがみ けんし)のことだ。
彼はクールな瞳に容姿端麗な様と孤独を好む"一匹狼"という姿から、陰で"狼王子"と呼ばれていたのだ。

それからもう一つ···―――
絃士は、わたしの元恋人だ。

「だーれも水島に賛同出来ないまま変な雰囲気になってたのを、破ってくれたのが狼王子だったの!あれ、かっこよかったなぁ〜!」

その瞬間を思い出すかのように美貴が言う。

まさか、絃士が同窓会に来ていたなんて―――
同窓会に参加するような性格ではないはずなのに···―――

それに"あの日"以降、この地域から遠くに異動になったはずじゃ···―――

すると、呆然としながら美貴の話を聞いていたわたしに気付いた美貴が慌てたように「あ!一人で興奮してごめん!」と言った。

わたしは平気なフリをすると、首を横に振り「ううん、大丈夫」と言い、ミルクティーで渇いた口の中を潤した。

美貴の話により貴博の不機嫌だった理由は理解できた。
しかし、まだ謎は残る。

なぜ、貴博の言葉で絃士が胸ぐらを掴む程の行動を取ったのか。
なぜ、大勢が苦手な絃士が同窓会に参加していたのか。
なぜ、仕事の都合により遠くに異動していたはずの絃士が戻って来ていたのか―――

それから、美貴の発言により、わたしが貴博に抱いていた違和感の正体も分かってきた気がした。

―――愛というよりモラハラ···

あれは愛の重さではなかった。
単なるわたしを支配したいだけの、貴博モラハラ気質のせいだったのだ。

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