泡沫の月に幽玄の狼
わたしが一人、頭の中でグルグルと色んな思いを巡らせていると、わたしの向かいに座る美貴はカフェラテに口をつけ、それから「そういえば、都子ってさぁ」と話し始めた。
「昔、狼王子と付き合ってたよね?」
「あー···、うん。まあね」
「高3くらいから···、何年くらい付き合ってた?結構長かったよね?」
「26までだから、大体9年くらいかな?」
わたしがそう言うと、美貴は「長っ!」と驚いた後で不思議な表情を浮かべ、そして「でも、そんなに付き合い長かったのに、何で結婚しないで別れちゃったの?」と言った。
「んー、別れた理由は···絃士の異動かな。ほら、警察官だから異動があったりするでしょ?」
「あー、まあね。でも、その前に結婚してついて行っちゃえば良かったのに」
美貴の言葉にわたしは笑って誤魔化すと、「うん···、そうかもね」と言った。
しかし、わたしたちには美貴には言えない色々な事情があった。
二人の約束もあった。
出来ればわたしも美貴の言うように、結婚して絃士について行きたかった。
それが出来なかったのには、それなりの理由があったのだ―――
わたしたちが付き合い始めたのは、高3の秋だった。
いつも一人でいる絃士とは、高2から同じクラスになるまで話した事はなかった。
話すようになったきっかけは、偶然わたしが何気なく行った屋上だった。
いつも一緒に昼休みを共にしていた美貴が当日は風邪でお休みで、わたしは一人で昼休みを過ごす為に屋上へ行ったのだ。
そこに偶然いたのが、絃士だった。
絃士はいつも一人で屋上で過ごしていたようだ。