泡沫の月に幽玄の狼

わたしは当時、周りの子たちと同じように彼を陰で"狼王子"と呼んでいた。

狼王子が孤独を好んでいるのは知っていた為、屋上で彼を見つけたわたしは、慌ててその場を立ち去ろうとした。
わたしが居ては、彼が一人になれないと思ったからだ。

しかし、そんなわたしに彼は―――

「ここに居てもいいよ」

そう話し掛けてくれたのだ。

「えっ···、あ、ありがとう」

それがわたしたちの始めての会話だった。

彼が話し掛けてくれたその日、わたしは狼王子への印象が変わった。
狼王子は人と接する事を嫌っていると思っていたからだ。

しかし、話し掛けてみれば普通に会話をしてくれて、わたしは彼が少し無口などこにでもいる普通の男の子だと知った。

それから何気なく話しているうちにお互いの家が近くなのを知り、程なくして一緒に下校するようになった。
その頃になれば、わたしは"狼王子"を絃士くんと呼ぶようになり、彼に恋心を抱くようになっていた。

そして高3に進級してから、彼が警察官を目指している事を知った。
わたしはそんな彼を応援すると言った。

それから高3の秋―――

「これからも俺の傍で···、俺が警察官になるのを見届けてほしい。俺は、都子を守れるような立派な警察官になってみせる」

それは彼からのわたしに向けての告白だった。

わたしは嬉しかった。
初恋が実ることがあるだなんて、ドラマやアニメの世界だけだと思っていた。

わたしは彼からの告白に涙を流しながら深く頷き、そして「こちらこそ、傍にいさせてください」と返事をした。

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