幽玄の狼
Story.1


「達也、お弁当箱は?」

夕飯後の後片付けをしながら、わたしは同棲中の恋人、藤川達也(ふじかわ たつや)に声を掛けた。

ソファーに寝転がりスマートフォンをいじっていた達也は面倒くさそうに「あぁ···」と返事をすると、怠そうにソファーから身体を起こし、お弁当箱が入っているランチバッグを持って歩み寄って来た。

「はい。」

そう言って、わたしにランチバッグを差し出した達也は「俺、風呂入るわ。」と言い、そのままバスルームの方へと向かって行った。

ランチバッグを受け取ったわたしは、達也の背中を見つめながら小さな溜め息をつく。
そして、達也がバスルームに入って行くのを見送った後でランチバッグの中からお弁当箱を取り出した。

すると、ランチバッグの底に何か紙のような物が入っている事に気付く。

(ん?何?)

わたしはランチバッグの中に手を差し込み、その紙を掴み取る。
それを取り出し見た瞬間に、わたしは息が詰まりそうになった。

それは淡いピンク色の付箋で、そこにはこう書かれていたのだ。

『今日も美味しかったです』

その文字は、達也の字ではなかった。
紛れも無く女性が書いた字だった。

「何、これ······」

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