泡沫の月に幽玄の狼
すると、食卓テーブルに置いていたわたしのスマートフォンが一定のリズムで振動し始めた。
ハッと我に返ったわたしは泡のついた手を洗い、水道を止めてタオルで手を拭うと、食卓テーブルの傍まで早足で歩み寄り、スマートフォンを手に取った。
スマートフォンの画面には、高校時代からの友人である小坂美貴(こさか みき)の名前が表示されていた。
「―――もしもし?」
久しぶりの友人からの電話に少し緊張気味なわたしは、自分を落ち着かせながら電話に出た。
すると、電話の向こうからはいつもと変わらぬ、明るい美貴の声が聞こえてきた。
『あ、都子?久しぶり!元気してたぁ?!』
美貴の声にホッとしたわたしは「久しぶり、元気だよ」と答えながら、食卓テーブルの椅子を引き、そこに腰を下ろした。
『今、電話大丈夫?』
「うん、大丈夫。どうしたの?」
『実はさ、同窓会やろうって話が出てて。都子来れる?来週の金曜日の夜なんだけど!』
美貴の話から、わたしは「来週の金曜日の夜?」と聞き返しながら、リビングの壁に掛かるカレンダーに視線を向けた。
"来週の金曜日"のそこには、カレンダーには書いていないが脳内に書いてある予定が浮かび上がっていた。
「あっ···、ごめん。来週の金曜日はダメだ。仕事が終わってから、取引先との会食が入ってて」
『えっ!マジ?!···あれ?おかしいなぁ』
まるで呟くかのように美貴が言う。
わたしはその美貴の反応に「どうしたの?」と尋ねた。
すると美貴は、『あ、いやぁ、男側の幹事が芝浦(しばうら)なんだけど、芝浦が水島から"都子は金曜日の夜なら大丈夫"って聞いてたらしくて。だから、大丈夫だと思ったんだけど···、聞き間違いだったのかな?』と言葉を濁した。
『久しぶりに都子に会えると思ったのに、残念!』
美貴は残念そうだったが、わたしに気を遣ってか明るい口調でそう言った。