泡沫の月に幽玄の狼
「で、どうなの?伊神くんが同窓会に来た理由、何かあるんでしょ?同窓会に参加するようなタイプじゃないし」
美貴はそう言い、テーブルに頬杖をつく。
すると芝浦くんは「うん、まあな」と言い、美貴が淹れてくれた緑茶を口へと運んだ。
「やっぱり都子に会いに来たんじゃないの?」
「んー、まあ、簡単に言うとそんな感じ」
芝浦くんの言葉に「やっぱりそうなんだ!」とテンションが上がる美貴。
(絃士が、わたしに会う為に···同窓会に来てた?)
何だか信じられない気持ちではあったが、正直嬉しかった。
「俺さ、絃士と鳳月を会わせたかったんだ。絃士が鳳月に未練があるの分かってたから。だから、水島に鳳月の予定を訊いて、それで絃士を誘って予定立てたのに!水島の奴···、嘘つきやがって!」
芝浦くんはそう言って、拳を握り締めていた。
―――絃士が鳳月に未練があるの分かってたから
(え···、絃士が?わたしに、未練?それなのに、どうして絃士は、わたしをフッたりしたの?)
わたしはもう、絃士に忘れられていると思っていた。
未練なんてないものだと思っていた。
それなのに、そんな話を聞いてわたしの気持ちが揺るがないわけがなかった。
「でも、芝浦くんはどうして、絃士がまだわたしに未練があると思ったの?」
わたしが恐る恐る芝浦くんにそう訊くと、芝浦くんは少し戸惑いながらも話してくれた。
「んー、これは絃士から鳳月には言うなって言われてたから、話そうか迷ったんだけど···、あいつ鳳月が家族を失ったあの事件に決着がついたら、鳳月にプロポーズするんだって、指輪を用意してたんだよ」
「えっ···―――」
「だから、異動が決まった時に鳳月と別れる選択をしたのは、信じられなかった。何か、他に理由があると思うんだけど、絃士の奴、頑なに話してくれなくてさ。警視庁から北海道への異動なんて普通はあり得ないから、絶対何かあると思うんだよ」
それは、わたしも感じていた。
絃士は何かを隠している―――···いや、隠さなくてはいけない警察内部の何かがあるのかもしれない。
(それに絃士が···わたしにプロポーズをする為に、指輪を用意してくれてた?)
わたしはそれを聞いた瞬間、視界が滲んでいくのを感じた。