幽玄の狼
「ごめん!」
『んー、まあ、仕事なら仕方ないし···、それならさ?同窓会の日とは別の日に久しぶりに会わない?ランチでもしようよ!』
美貴からの提案にわたしは「うん!久しぶりに会いたい!」と快諾し、それからわたしたちはランチの約束をして、電話を終えた。
わたしは美貴との電話を終えたスマートフォンに視線を落とすと、先程までの美貴と会える嬉しさから、何だか一気に現実に引き戻され、スマートフォンを食卓テーブルに戻しながら小さな溜め息を吐いた。
すると、ガラッとバスルームのドアが開く音がして、そちらに視線を向けると、スマートフォンを片手に持った達也が出て来た。
「なぁ、来週の土曜日、同窓会あるって。」
Tシャツに短パンという部屋着に着替え、首からはタオルを下げた達也が言う。
わたしは「うん、そうみたいだね。今、美貴から電話きた。」と答えながら、椅子から立ち上がった。
「都子は?行くの?」
「行きたかったけど、仕事だから無理そう。達也は?」
「俺は行くって返事した。」
「そっか。じゃあ、わたしの分まで楽しんで来て?」
わたしは達也にそう言うと、「おう。」と言う達也の返事を聞きながらキッチンへと戻った。
それからキッチンに戻ったわたしの目に最初に入って来たのは、達也のお弁当箱だ。
わたしは一瞬立ち止まったが、それから何事も無かったようにお弁当箱を洗う手順に入ると、「ねぇ。」と達也に声を掛けた。
「今日の玉子焼きどうだった?ちょっと失敗しちゃったんだけど。」
わたしがそう訊くと、達也は一瞬こちらを見たあと「別に問題なかったよ。」と答え、それからソファーに腰を落とした。
「···そっか、なら良かった。」
わたしはそう答えながら、心の中で大きな溜め息をつき、悲しいやら虚しいやら、複雑な感情である確信を持ちながら、お弁当箱を洗い始めた。
だって、今日のお弁当には、玉子焼きは入れていないのだから···―――