泡沫の月に幽玄の狼
「ごめんね、せっかく誘ってくれたのに···」
『仕事なら仕方ないよ!それならさ?同窓会の日とは別の日に久しぶりに会わない?ランチでもしようよ!』
美貴からの提案にわたしは「うん!久しぶりに会いたい!」と快諾し、それからわたしたちはランチの約束をして、電話を終えた。
わたしは美貴との電話を終えたスマートフォンに視線を落とすと、先程までの美貴と会える嬉しさから自然と笑みが溢れた。
しかし先程、美貴が言っていた言葉にわたしは引っ掛かりを感じる。
(貴博が、わたしは"来週の金曜日の夜は大丈夫"だと言ってた···?)
貴博は、わたしが来週の金曜日、仕事後に取引先との会食がある事は把握しているはずだ。
それなのにどうして、嘘を伝えたのだろう。
(それとも美貴の言うように、単なる聞き間違いなのかな···)
そんな事を思っていると、ガラッとバスルームのドアが開く音がした。
反射的にわたしがそちらに視線を向けると、バスルームからはスマートフォンを片手に持った貴博が出て来た。
「なぁ、来週の金曜日、同窓会あるって」
白いTシャツにグレーのスウェットというラフな部屋着に着替え、首からはタオルを下げながら貴博が言う。
わたしは「うん、そうみたいだね。今、美貴から電話きた」と答えながら、椅子から立ち上がった。
「都子は確か、金曜の夜は仕事あったよな?」
その貴博の確認するような言葉にわたしは違和感を覚える。
わたしは、「うん、会食があるからね。本当は行きたかったけど」と、何も知らないふりをして答えた。