泡沫の月に幽玄の狼
「それで、わたしに話というのは···?」
わたしが恐る恐るそう訊くと、椎名さんは煙を肺に落とすように深く吸い込んだあとでゆっくりと吐き出していた。
「そうでしたね、その話をしに来たんでした」
椎名さんはそう言うと、つけたばかりの煙草を灰皿に押しつけていた。
「早速なんですが···、実はわたしは、今ある事件の調査をしてまして」
「ある事件の調査、ですか?」
「その詳細については話せないんですが、最近その事件に関わる人間が浮上してきてたんです」
椎名さんはそう言い、上着の内ポケットからある一枚の写真を取り出し、わたしに向けてテーブルへ置いた。
「この人物をご存知ありませんか?」
写真には、ある男性が写っていた。
そして、それはわたしのよく知る人物だったのだ。
「えっ···、これは···―――」
そう、そこに写っていたのは、現在の恋人である水島貴博だった。
「今、同棲している恋人ですけど···、彼が何かをしたんですか?」
不安になりながらわたしがそう尋ねると、椎名さんは表情一つ変えずに「まあ、何かしたかと言われれば、しましたね」と淡々と答えた。
(え、貴博が···事件に関わるようなことをした?え?何をしたの?)
わたしが戸惑っていると、椎名さんは「鳳月さん?大丈夫ですか?」と声を掛けてくれた。
わたしは数回深呼吸をして自分を落ち着かせようとすると、「···大丈夫です」と答えた。