泡沫の月に幽玄の狼

そこで注文していた商品が届き、わたしたちそれぞれの前に飲み物が置かれる。
椎名さんは猫舌なのか、ホットのブラックコーヒーに息を吹きかけ、よく冷ましてからそっと口をつけていた。

「···それで、話の続きなんですが」

ブラックコーヒーが入っているカップを置きながら椎名さんが言った。

「水島に前科がないか調べていたところ、過去のある事件に辿りつきましてね。その事件というのが、鳳月都子さん···あなたの家族が被害に遭った火事の事件だったんですよ」
「えっ?―――」

(わたしの家族が被害に遭った火事に、貴博が···?どういうこと?)

「その事件の調書を確認したところ、事件ではなく事故として処理されていましたが···、どうやら上から書き換えられていた形跡がありましてね。鳳月さんは、あの火事が事故だということには納得されていますか?」

淡々とそう話す椎名さんに向かい、わたしは強い口調で「いいえ!」と答えた。
そして、当時の事を椎名さんに話し始めた。

「最初は、わたしの知人である刑事さんが担当してくれていたんです。その時は放火の可能性が高いという話で犯人を捜してくれていたんですが、なぜか途中から···担当さんが変わって、その途端に火の不始末として処理されてしまったんです。煙草からの出火だったって···、両親は煙草なんて吸わないし、弟も未成年だったのに······」

わたしがそう話すと、椎名さんは一つ溜め息を吐く、「やはりそうでしたか」と言った。

「―――それってやっぱり···、あれは事故ではなくて、事件だったということ、ですか?」

わたしが恐る恐るそう訊くと、椎名さんは迷いなく表情一つ変えずに「わたしは、そう思っています」と答えたのだ。

すると椎名さんは、上着のポケットからもう一枚の写真を取り出し、それをテーブルに置いた。
それは暗い夜に撮ったような写真で、黒いフウドを被った男性らしき人物が写っていた。

< 32 / 38 >

この作品をシェア

pagetop