泡沫の月に幽玄の狼

それから椎名さんは「また何かあったら連絡します」と言い、わたしの連絡を聞き、自分の名刺を置いてカフェから立ち去って行った。

カフェに残されたわたしは、冷めきったミルクティーを飲み切ってからカフェを出る。

冷たい秋風に吹かれ、自然と身を縮めてしまう。

(寒い···)

あんな話しを聞いた後でわたしは普通な顔をして、貴博が帰って来るあの家に帰れるだろうか。

わたしの家族、大切な人···―――
その全てをわたしから奪ったのが、貴博だったなんて···。

そんな人と、これからも一緒にいるなんて無理だ。

時刻は、既に帰宅していなくてはいけない19時を過ぎていたが、わたしは自宅ではなく、青葉交番へと向かっていた。

無性に絃士に会いたくなってしまったのだ。

絃士は、犯人を見つけてくれていた。
それなのに、警察側の都合で理不尽な処分を受け、北海道に飛ばされてしまっていた。

きっと、それをわたしに話せない理由もあったのだろう。
だから絃士は、わたしを置いて独りで行ってしまったのかもしれない。

わたしは貴博に怒られるのを覚悟で青葉交番へと行った。

そこには、わたしがこんな時間に来た事に驚く、絃士の姿があったが、わたし自身は絃士の姿を見ると、なぜか涙が溢れ出してきてしまったのだった。

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