泡沫の月に幽玄の狼

わたしはシャワーを浴びながら、美貴が言っていた"あの言葉"を思い出していた。

―――芝浦が水島から"都子は金曜日の夜なら大丈夫"って聞いてたらしくて···

その言葉の真意をわたしは貴博に確かめずに過ごし、今日に至っていた。

(貴博はどうして、嘘をついたの?)

本当は確かめたかった。
しかし、感情のままに貴博に問い詰めることをわたしは恐れた。

もし訊いたとして、貴博は本当のことを話してくれるだろうか。
逆に怒り出したら?わたしは、捨てられてしまう?

貴博に捨てられてしまったら、わたしはどうしたら良い?
もう誰にも···もうわたしを愛してくれる人なんて、現れないのではないか···―――

そう思いながら、わたしは自分の背中から首にかけて身体に残る火傷の跡を鏡越しに見つめた。

(こんな醜い身体···他の誰にも見せられない······)

実はわたしは過去の事故により、酷い火傷を負っており、この火傷を隠す為に年中タートルネック着ているのだ。
モヤモヤしたままわたしはシャワーを浴び終え、首に掛けたタオルでタオルドライをしながら、バスルームを出る。

すると、それと同時に玄関のドアが開く音がして、ふと玄関の方へ視線を向ける。

そこには、同窓会から帰宅した貴博の姿があったのだが、何だか様子がおかしかった。

楽しんで意気揚々と帰宅するのかと思っていたのだが、貴博の表情は険しく、何だか不機嫌そうだったのだ。

「おかえり」

わたしがそう声を掛けると、貴博は靴を脱ぎ捨てながら「あぁ」と適当に返事をした。

「同窓会、どうだった?」
「···別に。普通だったけど」

わたしとの会話を避けるように、貴博はわたしの横を通り過ぎ、リビングへと向かい、それからキッチンで冷蔵庫を開けて、ミネラルウォーターを取り出した。

(貴博···どうしたんだろ)

冷蔵庫の前でミネラルウォーターを喉に流し込む貴博の様子を見て、わたしは貴博をそっとしておく事にした。

きっと何かあったのだろう。
しかし、わたしは敢えてそれを訊かず、そのまま寝室へと向かったのだった。

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